猫額洞の日々

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2009年 06月 11日

ジョセフィン・テイ「フランチャイズ事件」読了

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 親代々の法律事務所を継ぐ、未婚の中年男が主人公である。
老嬢の伯母さんと二人で暮し、事務所は遺言書の管理等の
民事専門、所員も長年勤務者ばかり、子ども時代から変化の
ない環境で、穏やかな眠っているような日々を過ごす男に、
刑事事件の依頼が来る。

 依頼者は、落魄した二人暮しの中年女と老母であるが、少女を
誘拐監禁、暴行したと、身に憶えのない訴えを起された。
 母娘ともにエキセントリックな性格とルックスで、近所付き合いも
せず、超然と生きている。

 変わりない日常を愛する主人公であったのに、依頼者の中年女に
惹かれ、正義を実現したいと、少しずつ人が変わったように、探偵
まがいの行動、男性的な振舞いをして行き、彼女たちの無実を
証明する。

 遂には彼女に結婚を申し込むために、二人の移住先のカナダに
まで一緒に行こうとする積極的な男になって、物語が終る。
 ひとりの男の、死んだような日々からの復活と再生の物語でも
あるミステリだ。ミステリというより普通の小説に近いか。

 小説は大抵そうであるが、ミステリの愉しさも細部にある。
 冒頭、午後のお茶の日替わり定食的メニューや、見馴れた机や
カップ、お盆などの日常描写が魅力的だ。死ぬまで平穏な生活を
続けたいと願う主人公が、じわじわと非日常を生きるようになる
プロセスが丁寧に描かれ、ミステリの愉しさを味わわせてくれる。

   (HPB 87再)
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by byogakudo | 2009-06-11 13:14 | 読書ノート | Comments(0)


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