2009年 09月 12日

小林力「斬らずの伊三郎」読了

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 写真は、白山教会。

 今週の新着欄です。よろしく。
 新着欄

 犯罪が時代を映すゆがんだ鏡であるならば、小説は書かれた時代を
うっすらと反映し、鏡の裏側へとひとを誘う。

 と、例によって、どうも前ふりが大仰でいけない。小林力氏の新作
「斬らずの伊三郎」にも、現在の日本の抱える失業問題と、そのどうにも
ならなさへの怒りが透けて見える、と言いたかった。

 江戸の失業問題とは、浪人の多さだ。新作では、誕生時に母を失い、
まだ家を継がないうちに父を殺され、フリーターとして糊口を凌ぐはめに
至った若い武士、すなわち若い浪人が主人公である。

 孤独な男であるが、いきなりの運命の変転にもめげず、自分が少しでも
ひがみっぽくなってるなと思うと、すぐ反省するような素直さ・性格のよさで、
ひとに好かれる。

 読者としても好感の持てるキャラクターである。小林力氏の作品どれにも
いえる、こざっぱり感が、今回も読んでいてうれしい。

 主人公も読後感もさっぱりして後味がいいのは、キャラクター設定と文体の
もたらすものであろうがその代わり、時代小説に纏綿たる情緒を求める方には、
あまりお勧めではない。どの主人公もそれが大の苦手である。

 ただ、大人が読める時代小説はないかと尋ねられたら、お勧めできる。
いつの世でも理不尽さがまかり通るのが現世であろうが、苦々しさを静かに
ヒューマーをもって耐え、反撃すべきときには戦う姿勢が清々しい、大人の
エンタテインメントである。
 今回は、江戸の物売りのさまざまな呼び声が、場面展開に用いられていた。
     (学研M文庫 09初 帯 J)     
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by byogakudo | 2009-09-12 12:52 | 読書ノート | Comments(0)


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