2009年 11月 27日

ジョン・ウインダム「海竜めざめる」を読みながら遠田潤子「月桃夜」に目を通す

e0030187_13164281.jpg









click to enlarge.


 お師匠さんからお借りしている遠田潤子『月桃夜」(新潮社 09初 帯 J)が
あるけれど、ジョン・ウィンダムもある(星新一訳のHPB表記ではウインダム)。

 「月桃夜」の冒頭は、筆力を感じさせる。カヤックで漂流中の若い女と大鷲が
会話するのだが、無理なく物語に入ってゆける。

 次いで、天保の代から生きている大鷲の物語が始まるのだが、どうも癒し系
というのだろうか、奴隷状態にある、心を閉ざした孤児の少年(現在の大鷲)が、
同じ身の上の少女を保護する立場になることで、胸中の氷が溶けるなんて
読むと、先が見えるようで、ウィンダムに手が伸びる。
 「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作だそうで、一部のSFには反応
するが、ファンタジーはあまり、という輩向きとは言いがたい。勿論ちゃんと
読んでからお返しするつもりだけれど。

 「海竜めざめる」は、なんともウィンダムらしいウィンダム・タッチ。
 深い海溝目がけて、空から赤い火球が落ちてくる。火球は宇宙からの侵略
兵器らしい。いつの間にか海底基地を作ったようで、海上を航行する船が
襲われる。

 冷戦時代の作品なので、最初は相手陣営のしわざではないかと、両極で
疑心暗鬼に走るが、やっと地球外部の敵と認識が一致する。海底基地目指して
バンバン、原爆を投下するのも、原水爆に関してまったく想像力の働かない
欧米人らしいと思うけれど__彼らにとって原爆は、敵を壊滅させる大型爆弾
でしかないんじゃないか。__、それはさておき、物語を伝えるのがフリー
ランスのライター夫婦である。

 夫は元EBCという民間放送局の局員だったが、夫婦揃って最初の火球降下から
目撃調査している。
< EBC放送は<ニュース・パレード>という特集番組を電波に乗せたが、そこでは
 私たちは海洋特派員との肩書きつきで扱われた。わけのわからない話だった。
 実際のところ、フィリス(注 奥さんの名前)は一度もEBCに籍を置いたことは
 なかったし、私にしても、二年ほど前にフリーになった時、正式に辞表を出し
 てある。[中略]
  海洋特派員として放送したくせに、私たちへの局の待遇は向上しそうに
 なかった。かつては予言者だったかもしれないが、現在はとくに秘密情報に
 くわしいわけではない、といった理由からだろうか。>(p73上段)

 この引用箇所の前には、海上交通が悪化したため船舶株が下落し、航空
会社の株式や鉄鋼・ゴム・プラスチック関連株が値上がりしている話が
あり、夫妻は株式投資で利益を得たというエピソードも描かれる。

 地球の危機にあっても日常は続く。英国ミドルクラスは頑丈である。
 危機の物語を書くのに、地に足の着きすぎる書きっぷりだ。あくまでも
ウィンダム・タッチ。
     (HPB 66初)
[PR]

by byogakudo | 2009-11-27 13:47 | 読書ノート | Comments(0)


<< ジョン・ウィンダム「海竜めざめ...      ジョン・ウィンダム「さなぎ」読了 >>