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上巻の低速走行の遅れを取り戻そう、と言わんばかりに、小説も
読者もスピードアップして下巻読了。
上巻の最初の方で出てきた「緑死館殺人事件」が、やはり再び
取り上げられ、「これはメタフィクションですよ」「ポストモダーン
小説なんです」と念を押されて、物語は終息する。
舞台設定に時間がかかり過ぎた感はあるが(上巻)、下巻での
生者死者間の日本人論ディスカッション等を展開させるには、準備が
必要なのだから、まあ仕方ないだろう。
未来(敗戦後の日本。読者の生きている時代である。)を視て
(透視して)きた兵隊にくっついて、生の実感のない現在の若い男
まで「橿原」に来てしまう。
「ゾク」の「パシリ」みたいな男だが、今の口調で、生者死者間の
日本人論に、批評的立場からコメントを差し挟む辺り、真っ当な
道化振りである。
エンディングでは、「緑死館殺人事件」の作者たる主人公のみ、
生き延びる。「ピアニストを射つな」というメッセージだろうかと、
ヨタを飛ばしたくなった。
(新潮社 09初 帯 J)