2010年 04月 16日

クリストファー・プリースト「伝授者」読了

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 「逆転世界」は時間が空間に換算される世界であり、「伝授者」のマト・
グロッソ地帯のプラナルト地域に出現した異空間(200年後の世界)は、
時間の可視化のための空間である。どちらも魅力的な設定だ。
 プリーストは初期の方が断然すてきではないか。

 「伝授者」のとくに前半、拉致されて来た博士が肉体的・心理的拷問を
受けるかと思えば、尋問者と博士の立場が逆転して、もしや囚人と看守とは
牢獄に捉えられている点では同じと言いたいのかと思ってみたり、訳が解らない
状態を存分に楽しませてくれる。

 読者はただ、はらはらして途方に暮れるだけだが、主人公の博士は事態に
賢く対処する。たとえば迷路に押し込まれれば、迷路の構造を分析することで、
パニックを回避する。感情に流されない落着きぶりが、いかにも英国人らしい。

 人は自分を形作った時代に所属する。200年後の世界の、リベラルで合理的な
状況を評価しつつも、博士はやはり暴力と苦痛にまみれた過去の世界に、自身の
根をもつ。帰ったところで、どうしようもないと理解しつつ。

 「地球に落ちて来た男」の哀しさを、ふと思い出した。イギリスSFは暗くて、
いいなあ。

     (サンリオSF文庫 80初 J)
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by byogakudo | 2010-04-16 20:01 | 読書ノート | Comments(0)


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