2010年 05月 18日

岩佐東一郎「書痴半代記」読了

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 おっとり・ふんわり・可憐な随筆集だ。「ぼっちゃん育ち」とは、
男のひとに対して、あまり褒め言葉ではないが、岩佐東一郎の場合、
すなおな褒め言葉になる。

 「処女詩集の序文」に、日夏耿之介からもらった序文が全文再録
されている。一部引用すると、
< ただ、わたくしは岩佐君が、今の心の延び延びとした上品と
 稚醇な健かさを一生取失わずに、飽迄も君らしい立居振舞の央に
 あつて猶その静かな詩的発語を続けてゆくことを希む。>(p41)
[注:「延び延び」と最後の「希む」は漢字変換できなかった。]

 この序文に関して本人は、
<いまにして思えば海のものとも山のものとも判らない十八歳の
 少年の詩集のために噛んでふくめるように書いて下さつた日夏
 先生のご親切が痛感されるのだ。>(p42)と恐縮しているが、初めて
片仮名を覚えて以来、ひたすら本が好きだけで生きて来た、うつくしい
人生だ。

 関東大震災時には、<左右の本棚がぼくをめがけて倒れかかつた。
身体をはさむように倒れたが幸いすこしの差で、生命は無事だつた。>
(p46)

 戦時中は、本好きが集まって所持本の交換をする「交書会」である。
< 会員は、それぞれ防空服装で身を固めて、弁当水筒鉄かぶとを
 背負つて、交換用の書物を包んだ風呂敷を下げて会場へ集まるの
 だが、途中で空襲警報が二度三度と発令された日などは、防空壕に
 とびこんだり、焼けあとの凹地に伏せたりして来るので、会場に辿りつくと、
 みんな汗と泥で、さんざん汚れていた。そのくせ、誰ひとり、書物だけは
 少しも汚さないのだから、えらいものであつた。>(p135)

 本を愛し、本に愛された一生だ。男のひとの愛らしさである。
     (ウェッジ文庫 09初 帯 J)
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by byogakudo | 2010-05-18 13:36 | 読書ノート | Comments(0)


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