2010年 05月 27日
click to enlarge. 「日向で眠れ」よりも、こちらの方が好みか。 ブエノスアイレスの貧乏人街に暮らす老人たちは、夜な夜な カフェに集ってはカードを楽しむ。 貧しいなりに穏やかな日常を過ごしていたが、ある晩を境に 状況が一変する。若者による老人狩りが始まったのだ。 原作が刊行された1969年、あるいは日本語訳が出版された 1983年に読んでいたら、もっと寓意性を強く感じただろうが、 末期(まつご)資本主義経済下の2010年に読んでいると、 ほとんど実録ものに思われるから、作家の想像力はおそろしい。 かつては若かったが、いまだに青年を自称する老人たち。現に 若い連中に言わせれば「豚」である老人たちは、人口だけ多い 役立たずの集団だから、襲撃または排除の対象でしかない。 世代間の対立がストーリーを運ぶが、老人枠に入り切らない 主人公に、なぜか若い女が恋するサイドストーリーが絡む。 主人公は昔、妻に去られ、ひとり息子と暮らして来たが、息子は 世代間抗争の最中、殺される。 やがて若者の暴動も終結し、日常が回復する。係累のない 主人公は、自分の住まいより、遥かに上等な部屋に住む若い女に 引き取られ__実質、そうである。__夜はまた仲間とカードをやりに カフェに出かけるシーンで終る。 彼女は若い恋人であり、彼の保護者・母親でもあるのか? 要約すると、ずいぶんご都合主義なストーリーに聞こえてしまうが、 戦時下にも日常があるように、ヒューマーのある自省的なタッチで、 淡々と物語は進行する。 ああ、そうか。作品が構想された1968年といえば、全世界的に 若い連中が"No!"と叫んでいたときだ。そこから出発して、夢と内省に 満ちた、日常的な幻想譚が書かれたのだろう。 (集英社 ラテンアメリカの文学9 83初 函 帯)
by byogakudo
| 2010-05-27 12:47
| 読書ノート
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