猫額洞の日々

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2010年 07月 24日

山口瞳「続 世相講談」読了

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 昨日は失礼しました。五反田に行ったら疲れてしまい、夜、店にくる
元気が出なかった。(10時からTVで「うぬぼれ刑事」があるし・・・。
メタフィクショナルな構造と、典型の外し方がすてきで、「キツい奴ら」
以来、二十年ぶりかで毎週欠かさず見ている。TVドラマを、ほとんど
見たことがないのに。)

 忘れないうちに、今週のシブ目新着欄を、よろしく。
 新着欄


 昭和30年代から40年代の商売往来ともいうべき「続 世相講談」
(山口瞳 文藝春秋 68初 帯J)、市井の小さな職業と、その従事者
との付き合いが描かれる。

 活版印刷にまつわる物語『パン屋の青春』から書き抜いておこう。
食べるほうの「パン」ではなく、「活版」の「パン」だ。
 山口瞳が若い頃(昭和20年代)、印刷所兼出版社に勤めていたときの
友人、印刷部門の工員だった上条吾一との話である。

 戦前、小学校を出たての上条少年は、神田の印刷所に勤める。
< 印刷所の人は、活字を言うときに、必ず音と訓とをくっつけていう。
 すなわち、上はカミジョウ、下はシモゲ、木はモッキ、本はモトホン、
 日はニチビというように。 
  普通の小説などにつかわれる活字は、四千字から五千字であるという。
 国語辞典が六、七千。漢和辞典となると一万五、六千。このうち、もっとも
 使用頻度(ひんど)の高い活字が百三十三字で、この活字のはいった箱を大出張
 という。つぎが小出張。数字や年月日、印(しるし)ものが袖ケース。あまり使われ
 ない活字のケースを泥棒という。なぜかというと、昔は、そういうケースは二人で
 共有していた。よそのケースからとってくるから泥棒という。もっとも最近は
 第二出張というらしいが。>(p235下段)

 パン屋がパン屋たる文選(ひろい)の技術は、昼休みにひとりで練習して覚える。

< [略]活版屋は、まず文選工がいて活字をひろう。それを植字(ちょくじ)工が
 組む。組みあがったらゲラ刷をとる。校正がかえってくる。赤のはいったものを
 サシカエる。赤字係なんていうところもある。再校、三校で、校了になる。これを
 紙型にとり鉛版とする。不要になったケースから活字を一字一字もとの場所に
 もどす。これを「モドシ」という。なかなかに厄介な作業だ。
  あれは昭和二十四年だったと思う。会社が鋳造(ちゅうぞう)の機械を買うと
 いう噂がひろまった。つまり不要になった活字は一回ごとに潰してしまって、
 新鋳活字を造る。するとモドシ作業がいらなくなる。従って、そのぶんだけ
 人減(ひとべ)らしが行われるのではないか。わたくしにも工場内の動揺が
 感ぜられた。>(p236下段~p237上段)

 新しく鋳造された活字はトンガっているので、知らないうちに指にアナが
あくこともあったという。(p236下段)

 上条吾一は定年前(<来年で五十歳>p238下段)だが、目が悪くなった
ので大きな印刷会社を辞めた。

< 「[略]目のわるい文選なんてどうにもならない」
  「だって、ほかの職場に移してもらったら」
  「あたし、パン屋が好きなんだ」
   [中略]
  「俺もそうなんだ。どうも、グラビヤもオフセットも好きになれない。写植って
  のも大嫌いなんだ。活版はいいねえ。だんぜん力強いもの。サシカエってのも
  いい感じだ」
  「あれがつらいの」
  「わかるよ。その苦労してる感じがいいんだ。融通のきかないところがいい。
  それに明朝(みんちょう)の活字ってのが大好きなんだ」>
(p238下段~p239上段)

 文選(ひろい)の誇りは、<この原稿は読めませんから返しますとは絶対に
言わない>(p240下段)ところにある。

 また、鉛筆書きの原稿は光って読めない。きたない原稿もあって、
< 「知ってるよ。俺の現役のころでいうと、久生十蘭とか橘外男とか」>
(p240下段)、ですって。

 学者の原稿にも困りものがある。やっとゲラを出したのに、なかなか戻って
来ない。
< 「[略]やっと返ってくると書きこみとヒッパリとタコアシで真っ赤」
  [中略] 
  「図表があるでしょう。統計みたいなの。A5判一頁の面倒なのは熟練工が
  やっても半日はかかる」
  [中略] 
  「活版で斜めの線が組めると思ってんの」
   [中略]
  「円なんかもありますからね。そりゃ、トンボやトリイの名人もいますけれどね。
  それで、やっと苦心してつくってゲラを出すと、この図表一頁分トルなんて
  指定があったりする。[略]」
  [中略]
   「それがですよ。堂々と労働科学を論じていたりする」>(p241上下段)

 ああ、打ち疲れた。タイプミスがあったら、後日、訂正します。




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by byogakudo | 2010-07-24 12:30 | 読書ノート | Comments(0)


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