2010年 08月 08日

岩本素白「素白随筆集 山居俗情・素白集」読了

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 絶唱というと、ややヒステリックなものに聞えるかもしれないが、
静かで抑制された、しかし絶唱と呼ぶしかない作品もある。

 『山居俗情』中の『街の灯』は、東京への白鳥の歌ではないかしら。
昭和九年八月十日夜、と文末にある。

 ある夏の夜、下町に散歩に出た。灯火に水のきらめきが映える。湯の
帰りらしい女たちとすれちがう。そして中一日置いて、大震災があった。

<真の都会人ほど、都会の寂しさ心細さを知つてゐる者は無い。彼等は
 [略]思ひ出す古里さへ有つて居ないのである。現在住みつつあつて、
 而(しか)も日毎に形を変へて行く、それも大方は懐しい者よき者の
 損はれて行く、三年にして小変し、十年にして一大変遷をするといふ
 都会こそ、彼等の故郷なのである。>(p27)

<地方人の古蹟を愛する心は、その古蹟が依然として残存してゐる処から
 出発し、都会の人の名所を愛する心は、それが日々に壊滅して行く所
 から発してゐる。この意味で都会人の愛郷心は感傷と一つに成つてゐる
 とさへ言ひ得る。>(p27~28)

 そして繁華でない静かな下町の縁日の夜の思い出になり、縁日の外れに
安価な品を出す店々__

<酸漿(ほおづき)屋、飴屋、煎豆屋、それ等の火影を映す赤い大きな唐傘の
 色は、かう云ふ町の中で育つた子供たちの眼に深く沁みて、彼等が生長
 して大人となり、又時には遠く此の都会を離れた後までも、永く都会の
 思出とも哀愁ともなつて、其の胸に残るのである。>(p29)

     (平凡社ライブラリー 08初 帯 J)




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by byogakudo | 2010-08-08 12:50 | 読書ノート | Comments(0)


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