2010年 08月 31日

宮ノ川顕「おとうとの木」読了

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 今朝、某氏の某作(大変、飛び跳ねている)を読んだら、その感想
ばかりが脳中を飛び交い、前に読んで何やら書こうとしていた宮ノ川顕
「おとうとの木」の感想が、どこかに行ってしまった。脳のキャパが
小さくって困る。思い出せるかなあ。

 気を取り直して。
 主人公が、両親が死んで以来、放ったらかしている生家の草刈りに
来るシーンから始まる。
< 小さな平屋建ての家は、すっかり古びてしまっていて、外壁に
 塗られた青いペンキが、乾いた魚の鱗(うろこ)のように剥(は)がれ
 掛けていた。向こうの角の雨樋(あまどい)を伝って、屋根にまで
 達しようとしている葛(くず)の葉が、太陽の光をいっぱいに受けて
 揺れている。おそらくこのまま放置しておけば、このちっぽけな家は、
 やがてその旺盛(おうせい)な繁殖力に呑(の)み込まれてしまうだろう。>
(p5)

 冒頭部でイカれた。これは、ゆっくり密やかな速度で読むべき本だ。
と思ったのも束の間、気がつけば一晩で読み終わっていた。

 「化身」で文章の巧さに驚かされた宮ノ川顕だが、こちらも凄い。
 氷山の下部が、海上に見えるより遥かに深く巨大であるように、
宮ノ川顕の筆力のゆとりが、読者を引込んで行くのだろう。
 赤ん坊のときに死んでしまった弟の魂が、生家の庭のクヌギの木に
棲みつき、兄を慕って再びこの世に人として生き直そうと試みる。
 そんな怪談が、何の不自然さも無理もなく、当然の成行きとして、
読者に受入れられる筆力だ。

 怪談好きなら絶対、お薦め。
     (角川書店 2010初 帯 J)





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by byogakudo | 2010-08-31 14:39 | 読書ノート | Comments(0)


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