猫額洞の日々

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2010年 09月 15日

「中川一政文選」読了

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 写真は先週の雑司が谷の猫。

 たしかじゃないけれど、向田邦子は中川一政の絵が好きでは
なかったかしら? webで調べれば解るかもしれないが、なんだか
そんな憶えがある。

 「中川一政文選」の『身辺記』にある『道芝の記』は、随筆と
いうより、短編小説の味わいだ。

 中川一政の家の近所に住む,中川家より若い夫婦との交渉が描かれる。
 絵描き志望の好男子の夫は、敗戦で満州から引き上げてきて、なかなか
職が見つからない。お嬢さん育ちみたいな夢想家の妻は、やや調子外れ
ながら、夫を率いて戦後の荒海を航海するタイプだ。
 中川一政は、心ならずも、夫の絵を批評するはめになる。

 ようやく仕事が見つかれば、絵の道具を買って借金がかさみ、中川家を
頼ったときも、夫は妻の後についてくる。
 中川一政は、
< いつも細君を先に立てて自分が影のようについて来るが、自分が
 先に立って細君を率いて来るべきだ。そういうデッサンがどうも不足
 のようにみえる。>
 立替えてあげると胸をたたいた一政夫人であるが、しおたれた夫と、
甘やかしては苦労する妻の様子に、急にふたりに批判的になった。
 自分たち夫婦の35年間のあれやこれやが思い出されたのである。
中川一政に積年の怒りをぶつけるシーンで終わる。

 成瀬巳喜男作品にも出て来そうなエピソードであり、1、2冊読んだ
だけだが、向田邦子が書きそうな話でもある。
 中川一政と向田邦子。戦中派の生活に根ざした倫理観や自恃の念に
近いものを感じる。彼女の小説は、題材に寄りかかっていると、わたし
には感じられ、小説世界としてのふくらみが足りなく思われるが。

     (ちくま文庫 98初 J





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by byogakudo | 2010-09-15 14:10 | 読書ノート | Comments(0)


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