2010年 09月 22日

エドガー・パングボーン「オブザーバーの鏡」読了

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 原作の発表は1954年。穏やかなSFだった。ちっとも悪くはない
けれど、穏和すぎて、ときどき「さっさと話を進めないかなあ」と、
チリチリもした。

 火星人の目を借りて、人類のヒューマニティについて考察する物語だ。
 シニカルな火星人たちのおかげで天分が伸ばせず、引きこもりっぽく
なった天才少年が、善き火星人に再会して生き直す。
 感動的なエンディングである筈が感動しなかったのは、読者の責任だ。

 この本の良さはむしろ、子ども心が描かれる箇所にある。
 善き火星人は、天才少年の幼なじみの少女・シャロンと知り合う。
彼女は彼を信頼し、秘密の場所に連れてゆく。貧民街の見捨てられた
空家の台所だ。

< この台所の中に、大きな貧弱な建造物がほのかに姿を現わした。
 古い木箱を集めて作った、家の中の家である。シャロンは「待って」
 と言って、その建造物の中にもぐりこみ、マッチをすった。二本の
 蝋燭がともる。「もうはいっていいわ」身をちぢめて中にはいり
 こむと、彼女は声をひそめ、厳粛ぶって、海のように青い目を巨大な
 暗黒の中に沈ませていた。「あたしのほかには、まだ誰もはいった
 ことがないのよ__これはアマゴーヤなの」そして、明らかに思い
 なおし、同時にわたしを信用して大丈夫なのかと不安がって、こう
 言った、「もちろん、これはまぎれもないメイク・ビリーヴだけどね」 
 (メイク・ビリーヴとは本物ではないのに本物だというふりをすること。)
  それはメイク・ビリーヴであり、同時にそうでなかった。ここには
 祭壇があった。底を上にむけた箱である。その上の即製の棚には、
 ぼろ人形と見まちがえそうな物がのっている。「アマッグよ」と
 シャロンはその人形らしき物にむかってうなずきながら言った。
 「象徴だわ、前は人形だったんだけど。人形なんて子供っぽいでしょう。
 そう思わないこと?」[以下略]>(p63)

 あるいは成人した後、善き火星人に再会した折りの会話である。
 <歩道にあった特別な裂け目>、<くねくねした裂け目で、SとAの字を
いっしょにしたように>見える裂け目から彼らの王国・ゴヤランティスが
幻視され、彼らはそこに生きたという思い出だ。

 国際幻想文学受賞作と、J下端に記されているのは、こういう辺りで
あろうか。

     (創元推理文庫 67再 J)





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by byogakudo | 2010-09-22 13:38 | 読書ノート | Comments(0)


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