2010年 09月 27日

J・G・バラード「楽園への疾走」1/3

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 バラードの近年の作品で読んだのは,「コカイン・ナイト」だったか
「スーパー・カンヌ」だったか、それからして思い出せないが、それらの
前、1995年刊行の「楽園への疾走」は、遥かにいい。

 「コカイン・ナイト」或いは「スーパー・カンヌ」が現実という
油膜に覆われて作品世界の独立が怪しくなり、退屈なリアリズム描写、
現実の平板ななぞり、だったのと違って(たしか、そういう感想だった)、
現実世界と作品世界に微妙な距離がある。

 ここでも、実際の環境保護運動の純粋化・過激化が、そのまま誇張
なしにリポートされているかのような感触があるが、それが却って
グロテスクなリアリズムを感じさせる。作家の想像力と現実の動きが、
互いに追いつき追い越そうとするのを、目撃しているような不気味さだ。

 核実験に立ち会ったせいで死亡したと思しき父を持つ、若い英国人の
少年は、タナトス性向だ。核爆発による死、世界の終末を秘かに願って
いる。
 母がアメリカ人と再婚したせいもあるのか、彼は年上の女に惹かれる。
環境保護運動家であるイギリス人の中年女性は、元医師だ。患者を安楽死
させた件で結局、医師免許を剥奪され、ジャーナリスティックに言えば、
「死から生へ」と転換し、今はタヒチ近くの核実験場に棲むアホウドリ
救済運動に熱狂しているとき、彼と知り合い、運動に巻き込む。

     (創元SF文庫 09初 J)

09月30日に続く~





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by byogakudo | 2010-09-27 18:05 | 読書ノート | Comments(0)


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