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猫額洞の日々

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2011年 01月 13日

唐十郎「下谷万年町物語」読了 

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 「見えない3を求める2の群」というサブタイトルは、どうだろう?

 娼夫ではお市とお春の二大巨頭、彼らの使い走りをする主人公の少年・
文ちゃん(お春の使い)とお市の使いの潤ちゃん、かつてお春に愛された
洋ちゃんは空襲で死んだ洋ちゃん(劇団・サフラン座の演出家)に重なり、
瓢箪池の水の精であるヒロポン中毒の女優は、現実の劇団・軽喜座(座長は
お春を演じる)に対抗・便乗する幻の劇団・サフラン座を、洋ちゃんと
文ちゃんとの三人で立ち上げ、舞台では現在の洋ちゃんを演じようとする。

 (今の)洋ちゃんと文ちゃんに共通するのが、六本指として生まれた
らしいこと。真偽のほどはわからない。そもそも六番目の指自体、幻視の
産物であり、自らのフィクション性を象徴する。サフランの花弁・6は、
2と3の倍数だ。
 そして行方定まらぬ警視総監の帽子は、文ちゃんの悪夢の中では
部分にして全体、6の対極の可視の存在であり、現実のシンボル性と
いう面で、フィクショナルな存在でもある。

 文ちゃんが青年・洋ちゃんと一緒に行った、隅田川の用水池でのトンボ
捕りの風景__<鳥もちを竹ざおに塗って、夏の真っ盛りに、ビュンビュン
振った。[中略] 鳥もちのついた銀ヤンマは羽がひきちぎれ、胴が折れ、
無理に籠にねじこむと、トンボのくせに噛みついてくるので、気味悪く、
大笑いしてねじりつぶした。籠に入れたのは、きれいな目玉だけという
こともあった。>(p14)。

 長屋の屋根と屋根のすきまに転がる、捨てられたヒロポンのカプセル。
「中島らも烈伝」のバンビのトイレットからの風景だ。こちらは睡眠薬の
空き箱だけれど。

 夜更けの万年町に流れるタンゴ「碧空」に、娼夫のリンチシーンでの
「ラ・クンパルシータ」。好きだなあ。

 町場(まちば)ファンタジーの傑作。対を成すのは「魔都の群袋」
なのかしら? だったら読まねば。
   
     (中公文庫 83初 帯 J)     





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by byogakudo | 2011-01-13 12:59 | 読書ノート | Comments(0)


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