2011年 01月 18日

フィリップ・K・ディック「あなたをつくります」読了

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 驚きっぱなしで読み終えた。シミュラクラの話はリンカーン・シミュラクラと共に
置き去りにされ、もっぱら主人公の嘆きと苦痛の過程を読者は目にすることになる。

 狂気の愛、愛の狂気の物語で後半が閉じられる。
 精神病者がすぐに発見・強制治療させられる時代なので、分裂症と診断された
主人公は、幻覚剤投与治療を受ける。幻覚の中で固着対象(つれなき美女)との
日々を過ごすことで、昇華させようという治療法であるが、ディック、えらい!

 作者本人の迫害妄想と、愛すれば傷つけ合うだけの相手しか愛せない質である
ディック本人の人生とが、作品化され、提示される。
 精神病院での医者との会話には、「ヴァリス」神学への萌芽も見られる。(と思う。
再読しなきゃ。)

 主人公が恋する非情なヒロイン・プリスは、神経症ではなく、精神分裂症で強制
入院させられたというのだが、外部の眼(主人公の視点)で描かれる記述を読む
限りでは、分裂症より神経症の美女の感じを受けた。

 < わたしにとってプリスは、生命であり__同時に、反生命でもある。[中略]
 彼女をそばに置いておくことは、わたしには耐えられない。彼女がそばにいない
 ことも、わたしにはがまんできない。彼女がそばにいないわたしはどんどん衰えて、
 ついにはなにものでもなくなって、裏庭のゴキブリみたいに死んでしまった。[略]
 彼女のそばにいるわたしはといえば、切られ、突かれ、バラバラにされ、踏みつけられ
 __それでもどうにかして生きている。[中略]傷つくことを楽しんでいるのか? 
 ちがう。[略]傷つくことが生きることの一部なのだ。プリスとともにいることの一部
 なのだ。[以下略]>(p240)

 ディック・ヒーローの絶唱だ。男は、人間は、めんどくさい存在であり、生きている
こともそうである。

     (創元SF文庫 02初 J)





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by byogakudo | 2011-01-18 14:37 | 読書ノート | Comments(0)


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