2011年 04月 10日

サイモン・ブレット「気どった死体」/フランシス・リック「危険な道づれ」読了

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 ミセス・パージェター・シリーズ第一作「気どった死体」では、
パージェター未亡人の過去はあまり書かれていない。亡夫が暗黒街
関係者らしく記されているだけで、彼のかつての部下たちも少ししか
登場しない分、イギリス・階級社会へのくすぐりが楽しめる。

 上流階級向けホテルを経営する中流上がりの女経営者と、所属階級が
いまいち不明(でも、お金持ち)のミセス・パージェターとのやり合い
及び、ホテル滞在客の過去__彼らの未来は老人病棟に向かうだけ__
の描写などは、まあまあ面白がれる。
(HPB 88初 帯)

 フランシス・リック。いかにもフランス人が考えそうな英米人の
名前くさい。日影丈吉訳なら、と読んでみたら、これが素敵。

 若い男が刑務所の看守を殺して脱獄するシーンから、いきなり
始まる。
 追手を撒いた男は、人里離れた廃墟に暮す夫婦に助けられる。夫は
童話作家、妻は、革細工の小物を作ってパリの問屋に送り収入を得る、
ヒッピーみたいな夫婦だ。 
男は、彼の知る秘密のせいで追われているのだと、漠然と語る。
夫婦には、それが妄想なのか事実なのか、判断できないが、ともかく
彼の国境越えを手伝おうとする。
 逃避行に至る前、逃げる最中のじわじわと静かな宙ぶらりんさが、
いい。

 別々に寒村を離れて落ち合うことになり、男はひとり待つ間、恐怖も
忘れて、ある空白に陥る。

< 獣たち、かれらの生涯の一定期間だけでなく、一生のあいだ常に
 警戒を忘れず、いささかの物音にも逃げ走るものたちのことを、彼は
 考えた。かれらも彼とおなじ感覚、恐怖とくつろぎの交互連続、彼が
 いま味わっているような完全な安心感などを知っているのかと、ふしぎ
 に思った。あるいは、かれらにとって恐怖と平穏は、私たちの場合の
 暑さ寒さ、覚醒と睡眠とおなじくらい、ありきたりのものなのか......>
 (p72下段〜p73上段)

 ミステリだサスペンスだというジャンル分け以前に、いい小説だ。
     (HPB 81初 帯)





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by byogakudo | 2011-04-10 15:05 | 読書ノート | Comments(0)


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