2011年 07月 14日

田村泰次郎「銀座慕情」読了

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 映画「肉体の門」は見ているが原作は読んだことがない、名のみ知る
田村泰次郎である。
 (田村泰次郎「銀座慕情」 鱒書房コバルト新書38 55初 J)

 むかしは万事シリアスだった、というのが第一印象。1955年刊だから、
もはや戦後ではないと言われ出した頃の風俗、特に性にまつわる風俗が
描写されている。

 処女でなくなることや、親の同意を得ない結婚に、まだ白い目が注がれ
かねない時代であるが、現実は表向きのコードを侵犯している。掟破りの
側にもコード違反の意識はあるから、葛藤もある。性と実存とがきしみ合う。
ドラマも生じようというものだ。
 すべての男女が娼夫であり娼婦である自由が確立され、すべてが平べったく
なった当節から振り返ると、遠い世界だが、性の問題が解消されきった訳でも
あるまい。平坦さ、薄べったさ故の問題も生じる。

 短篇小説としての上手さでは、「野の虹」がいちばん良いと思う。
 三十前の夫婦がある。妻が年下の男と心中を図り未遂に終わる。失職して
ダンスホールで稼ぐ妻に養われている夫の引け目、自分の娼婦性に無意識で、
よく知り合ってもいない男と心中を図る妻。戦後のアナーキーさは続いている。
 妻の言葉で語られるだけで、物語には直接登場しない若い男の存在が、
ストーリーに暗い奥行きをもたらし、最後のシーンで妻が捨てる白い粉薬
(睡眠薬だろうか)が、アナーキーの最後の輝きを見せる。
 





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by byogakudo | 2011-07-14 14:58 | 読書ノート | Comments(0)


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