猫額洞の日々

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2011年 07月 20日

泉麻人「東京23区動物探険」・常盤新平「遠いアメリカ」読了

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 東京ものを2冊続けて読んだ。泉麻人「東京23区動物探険」は、
1990年代初頭、後で思えば、バブル経済最終期の東京で見られた、
身近な動物たちの観察レポートだ。

 団地に巣作りするツバメ、おそらくヒヨドリに喰われて個体数が
減ったアブラゼミ、銀座で食事するカラス等々、ヒトの経済活動と
動物たちの行動や生息数との関係が記された、文明批評的観察記録だ。
     (泉麻人「東京23区動物探険」 講談社文庫 93初 J)

 
 常盤新平「遠いアメリカ」で描かれるのは、1950年代後半の東京だ。
まだ都電が縦横に走り、バスもよく使われて、都内を細かく移動できた
頃の東京である。その後のモータリゼーションで路面電車もバスも迷惑
施設扱いを受け、主人公たちのように都内を動きたかったら、底深い
地下鉄や歩道橋頼りになる。

 1955年、東京。古本屋で買うペイパーバックのミステリや犯罪実話が
好きで、翻訳家になれたらと願う青年と女優の卵の恋物語が始まる。

 六本木の喫茶店で待ち合わせるふたり。彼の手には「誠志堂」で買って
来たペイパーバックとアメリカの女性誌「ハーパーズ・バザー」、彼女は
俳優座劇場の友人に届けるための「クローバー」製ババロワを持つ。

 彼らは八重洲口行きのバスに乗り、有楽町へ映画「七年目の浮気」を
見に行く。銀座を歩き、冷しそば(「冷やし中華」とは書かれない)を
食べ、時代遅れに感じられる(ようになった)静かで落ちついた喫茶店
「コロンバン」でミルクティーを飲む。
 「イエナ」や三原橋の小さな書店に立寄った後、数寄屋橋へ、そこから
バスで東京駅、八重洲口から地下道を通って丸の内側へ、そして高田馬場
の彼の下宿まで関東バスに乗る。

 青年は戦後のアメリカ文化に惹かれているが、彼の思うアメリカとは、
スージー・パーカーのソフィスティケイティッドな美に象徴されるアメリカ
であり、ペイパーバックになったマイナー文学のアメリカだ。
 サブカルチュアというジャンル命名以前、明治以来の事大主義的風潮が
根強く残る当時である。東北地方に暮らす彼の父に、主人公が愛する世界を
伝えたくとも、共通言語は存在しない。

 ペイパーバックに出て来るハンバーガーとは何だろう。ハンバーグとは
違うみたいだが。コカコーラは出回っても、ピッツァやクリーネックス
って何だろう。そのうち輸入されて現物を確かめられるだろう。
 そんな時代に小さな物語の翻訳を志した青年が少しずつ大人になって行き、
女優の卵・少女と、親に反対されても、結婚しようとする連作小説集。
     (常盤新平「遠いアメリカ」 講談社 87再 J)





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by byogakudo | 2011-07-20 14:14 | 読書ノート | Comments(0)


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