猫額洞の日々

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2012年 05月 10日

押川春浪『銀山王』は読んだが

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 伊藤秀雄 編「押川春浪集 明治探偵冒険小説集 3」の『銀山王』は
まあまあ読めたが、次の『世界武者修行』となると、ヒーローがねえ。
 正義感溢れ、偽善を憎み、弱きを助け、武勇に長ける蛮カラ青年
というのは、好みじゃない。だいたい蛮カラってマザコンに裏打ち
された存在でしょう? あたしが好きになるわけがない。
 「マザコンよ、退け!」
 「くたばれ、コワモテぶりっこども!」と、数十年ひそかに叫び
続けていまに至るが、根絶は難しいだろう。他者である女たち__
恋人や妻__を母親代わりにしないと才能が発揮できないようなら、
そんな才能、発揮しなくてよろしい。

 なんの話だったか。『銀山王』に戻ると、ヒロインを助ける大富豪の
奇老人が出てくる。「離島(はなれじま)老人」と呼ばれる変人で、
アデン一の金満家でありながら、離島の豪壮な館には住まず、どこで
何をして過しているか誰も知らないが、現れるときは、いつも乞食の
ような格好で貧民街・社交界を問わず現れ、神のごとき洞察力を示し、
陰徳を積む。

 哲学者ではなく、悪戯者(いたずらもの)を自称し、何事か行うとき
には、公平主義と復讐主義とで臨む。
< 「[略]この世の中の貧富貴賤皆苦楽が平均しておらなければ嘘だ、
 [中略]楽みのある処にはそれ相応の苦みを与え、苦みのある処には
 それ相応の楽みを与え、なるべく社会万人の幸不幸を平均すると
 云うのが、俺のいわゆる公平主義だ、復讐主義とは、人は受けし
 怨恨(うらみ)と同じ怨恨を復(かえ)するが正当だと云う主義だ、この
 復讐主義も公平主義から来ておるのだ、人間の権利は皆同じである
 のに、或る者が他の者を不法に苦めると云う道理は無い、不法に
 苦められて黙っておるのは権利の不公平を許すのだ、何人も受けし
 怨恨と同じ怨恨を復さなければ、世界は猛獣の巣のようになって
 しまうだろう、[以下略}」>(p121-122)

 リンチ主義としか読めないが『世界武者修行』のヒーローに比べると
ヒューマーがある分、読んでいられる。

 彼の力を借りてヒロインは恋の勝利者となり、復讐も遂げるのだが、
紙幅の都合上(と、著者自身が書いている)、大急ぎな展開になり、
これで十全な復讐といえるのか、ちょっと疑問である。

 エンディングの決め方はいい。ヒロインたちを無事に逃亡させ、
活劇の舞台となった廃墟の白雲塔に残った離島老人、いや離島隠者は、
<塔の絶頂から遠く遠く消えゆく帆走船(ヨット)の影を見送り、アア
 面白かったと大いに笑い、何人(なにびと)も気付かぬうちに塔中の
 一室に姿を隠し、ゴロリと横になって平気な顔で眠った。>(p204)

(ちくま文庫 2005初 帯 J)





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by byogakudo | 2012-05-10 12:48 | 読書ノート | Comments(0)


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