2012年 07月 25日

獅子文六「おばあさん」読了

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 戦時中に書かれた家庭小説。時局を刺激しないように注意深く書いて
ある__たとえば一家のもてあまし者的・三男坊の属する新劇団体は、
赤ではなく、中流階級向けの演劇集団である。__が、真っ最中の
戦争に関しては、日清日露を引き合いに出し、主人公「おばあさん」
の口を借りて、冷静に述べている。

 東京のあるプチブルジョア一族の「おばあさん」はご隠居では
あるが、家族全員の動きに秘かに気を配っている。あの世で亡夫に
まみえたとき、家がたしかに存続されていると伝えられるように。

 「おばあさん」は肉親相手であっても(あるがこそ)、話の持って
行きように気を遣う。相手に合わせて伝え方を考えて言う。
 読んでいると、死んだ祖母を思い出す。彼女も家庭内政治学の大家
だった。「おばあさん」そっくりのやり方である。

 ダイレクトに言うとただ反感を買うだけだと思えば、搦め手から迫る。
 いまここで文句が言いたくても、後で言った方が角が立たず効果がある
と思えば、後日にする。
 ひと言で言えば人間通だが、こういう技術を受け継がなかった(継ぐ
能力がなかった)のが、思えば残念なことである。

     (角川文庫 1955年7版 裸本)





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by byogakudo | 2012-07-25 12:53 | 読書ノート | Comments(0)


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