猫額洞の日々

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2012年 09月 26日

M・アンダーウッド「しろうとスパイ」読了

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 血沸かず肉踊らないミステリが好きだが、それにしてもほどがあると
思わせるM・アンダーウッドをもう一冊見つけたので、読んでみた。

 タイトルに謳われた通り、これもスパイものにしてはアンサスペンスフル。
 ベルリンの壁が作られた東西冷戦下、戦前のドイツに留学していた中年
イギリス人弁護士が、かつての下宿先の(かつての)若い人妻が、ソ連の
スパイなので探って欲しいと頼まれる。

 恋愛感情が再燃しかかり、彼は彼女への思いを再確認するためにベルリンに
趣く。
 彼女は顔立ちこそあまり変わっていないけれど、<かなり体重をまし、年齢から
くるしまりのない身体がはっきりみえるような絹のぴったりした服を>(p57下段)を
着て戸口に現れたので、彼は安心してスパイ活動に従事する。
 そこまで露骨に書かれていないが、要はそういう心理であろう。

 ベルリンの東西スパイ合戦に巻き込まれた彼の冒険といえば冒険が、地道に
描かれるが、ベルリンの壁の圧倒的な非人間性が、M・アンダーウッドをして
このミステリを書かせたのではないか、という感想を抱く。

 ベルリンの壁を実際に見たことがなくとも、ある日いきなり巨大な壁が、建物も
街並も無視して人為的な東西の境界線上にそびえ立ち、ベルリン市民を、訪れた
人々を圧迫する様子が、鮮明に伝わってくる。主人公はむしろ、この壁だ。

     (HPB 1967初)





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by byogakudo | 2012-09-26 17:12 | 読書ノート | Comments(0)


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