2012年 11月 01日

タッカー・コウ「刑事くずれ」+「刑事くずれ/臘のりんご」読了

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 第一作「刑事くずれ」で穴堀段階だった、ミッチ・トビンの
自己懲罰的裏庭の塀は、第三作「刑事くずれ/臘のりんご」の終り
では、あとは煉瓦を積み上げるだけで完成というところに至った。

 第二作をSが読み始めたので、第三作に飛んだのだが、元刑事
ミッチ・トビンは不祥事で警察を首になって三年、相変わらず就職も
開業もしていない。

 第一作では組織から一万ドルの支払いがあった。1972年の原作
だから、かなり家計を保たせられる金額なのだろう。奥さんのパート
タイム仕事だけで、夫婦と息子ひとりの生計が成り立つとは思えない。

 馘首から二年目の第二作でも、元刑事の捜査力を活かした仕事で、
何やら臨時収入があったらしい。
 奥さんのケイトは、
<こういう仕事をやっているうちに私の気がまぎれて魔法のような
 効果があらわれ、苦悩にみちた記憶がすっかり私の脳裏から消え
 うせることを望んで>(P29下段〜p30上段)いるが、
 ミッチ自身は、
<そんなことは起りはしない。心とはそういうものではないし、また
 私は自分のしたことを忘れてよいとは考えないのだ。>(p30上段)

 よくできた奥さんだけれど、彼女の側からは書かれていないとは
いえ、そこまで献身的な奥さん、というのも、いささか非人間的に
思える。
 これは彼女の物語ではなく彼の復活と再生の物語だから、まあ、
仕方ないか。

 「刑事くずれ/臘のりんご」では<精神病患者だった人々の中間の家>
に調査に行く。中間の家については、K夫人からフランスでの例を伺った
ことがある。たとえば一人暮らしのひとが手術を受けて退院するが、
いきなりふだんの生活に戻るのは難しい。そこで郊外にある中間の家に
滞在して体力の回復を待ち、自宅に戻る。そんな日常生活への移行を
スムーズにするための施設だ。

 ミッチ・トビンはよほど精神的にタフらしく、三年間、苦悩に耐え続け、
精神病院から退院して間もない、まだ不安定さの残る人々の間で調査する
ことになっても、彼らを外部から観察する目を持ち続ける。(ここらも
非人間的に思うが。)

 第三作の最終行は<私は今夜、夢を見ないで眠るだろう。>である。
ようやく苦悩との折合いがつき、この先は私立探偵を開業するなりして、
別の人生、別のストーリーが拓かれそうだから、ミッチ・トビン・シリーズ
もこれで終わるのだろうか。webで調べれば、すぐ解るけれど。

     (「刑事くずれ」 HPB 1972初 帯 VJ無)
     (「刑事くずれ/臘のりんご」 HPB 1973初 VJ無)





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by byogakudo | 2012-11-01 12:34 | 読書ノート | Comments(0)


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