2013年 06月 06日

松岡和子「深読みシェイクスピア」もう少し〜読了

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 スリルとサスペンスにあふれる聞き書き集、というより対話集だ。
 劇団がシェイクスピア劇を上演する際に、いまの日本人が見て聞いて
ピンとくる新訳を依頼され、第一稿を作る。
 稽古に立ち会い、台詞が実際に役者によって発せられる様子を見る。

 そこでたとえば「ロミオとジュリエット」のバルコニー・シーンでの、
佐藤藍子演ずるジュリエットの台詞を改訂する。
 彼女の大柄な立ち姿を見て、「(注: ロミオが)結婚を考えてくださる
なら」という翻訳台詞の間違いに気づく。

 原文では、ジュリエットはちっともへりくだっていないのに、長年の先行訳に
引きずられて「考えてくださる」と訳していたことに気がつき、「結婚を考えて
いるのなら」と改める。
 さらに、ジュリットがバルコニーの上にいて、ロミオが下にいるのは、中世の
宮廷恋愛的な構図であることに思い至る。

 戯曲は上演されるためにある。役者の身体を通して台詞や構造が視えてくる。
松岡和子の翻訳プロセスは、書斎での読み込みと、稽古場での読み直しの
繰り返しだ。

 シェイクスピアをほとんど読んだことのない、家にあった大時代な坪内逍遥訳で
ひとつふたつ読んだきりの奴でも、何不自由なく面白く読める、細やかな工夫が
凝らされた本だ。

(6月7日追記: 翻訳者はその身体を原作の依り代に捧げ、翻訳行為に携わる。
 脚本の翻訳にはさらに、役者の身体という依り代が存在し、翻訳にフィード
バックされる。)
 
     (新潮選書 2011初 J)





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by byogakudo | 2013-06-06 13:07 | 読書ノート | Comments(0)


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