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猫額洞の日々

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2013年 08月 28日

フランク・パリッシュ「優雅な密猟者」読了

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 人間に化けた牧神か、あるいは読んでないけれど「真夏の夜の夢」
のパックみたような主人公の冒険ミステリ。

 クリスティのミス・マープルが住むセント・メアリ・ミード村にも
都会から移り住んできた人々と元々の村人との接触が描かれるが、
1977年刊の本書においても似たような状況は続いている。

 主人公ダン・マレットは、母の願いに応えて街の銀行員として
有能さを発揮していたのに、ある日、森番小屋で暮す、村の貧乏人
生活に回帰してしまう。
 村の金持ち階級宅で日雇い仕事をし、食べたいものは密猟で補い、
健康保険の病院の大部屋を拒否する母の手術のために大金が必要と
なると、盗みもやる。

 但し、彼は教育を受けた森の男なので、街との交渉が必要な折には
いつでもミドルクラスの話し方や態度で交渉する。銀行員時代のスーツ
一式と靴だけは取っておいてある。
 街用の喋り以外は、もっぱら田舎なまりの演技で通し、都会からきた
金持ち連中をからかっているが、若くうつくしい人妻に会ったときは、
思わず銀行員英語に戻ってしまった。

 小柄でやせて筋肉質、運動神経良好。澄んだ青い目と母性本能を
くすぐる笑顔が彼の武器。どうも妖精的だ。
 密猟や盗みに関しては、富の再分配で理論武装している。

<この双眼鏡は、ジェンキン提督が戦争中に掠奪してきたものを、
 ダンがこっそり頂戴してしまったのだ。敗軍の兵から武力によって
 まき上げたものだから、いただいてもかまわないというわけである。>
(p77下段)

< かつて、二百エーカーの小作地があれば荘園主が紳士らしい
 生活ができた時代に、コックスモアは小さな荘園の屋敷であった。
 だがそれはもう昔のことで、今では、紳士たちはロンドンでサラリーと
 税金のごまかしと必要経費と銀行預金引き出しに頼って暮している。>
(p138上段)

 だから密猟や盗みなど小悪に過ぎないと、ダン・マレットは考える。
彼は田園生活が性に合っているので、それを続けたいだけだ。

 またケルト的自然観の持主にも見える。彼が惹かれた人妻(彼女も
彼に惚れ込む)の名前が思い出せなかったとき、カミラだとわかるが、

< そうだ、それが彼女の名前だ。カミツレと椿(カメリア)に似ている。
 ダンの母親はカミツレを煎じて飲んでいる。そして、ここの庭には
 椿の木がある。根を湿った泥炭入りの袋で包んで送られて来たのを、
 ダンが穴を掘って植えたのだ。>(p60下段)

 村を混乱に陥れた恐喝事件の犯人を暴き出すために、放火をさせる
策略を用いたときにも、人や犬や動物たちの無事を図るダン・マレット
である。やはり彼は牧神か妖精の化身であろう。

     (HPB 1979初 帯 VJ無)
 





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by byogakudo | 2013-08-28 16:35 | 読書ノート | Comments(0)


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