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猫額洞の日々

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2013年 09月 03日

イヴリン・パイパー「バニー・レークは行方不明」読了

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 ちくま学芸文庫を読まなくっちゃな、フーコーもドゥボールも途中で
止めてるじゃないか。
 と思いつつミステリばかり読んでいる。ときどき無性にSFが読みたく
なるが、好きなタイプのSFは限られているので、探すのが難しい。
 ディックの純文学的(!)処女作が出たようだが、いつか手に入れて
読もう。

 ミステリに関しても好きなタイプが限られる。本格派は名探偵の
推理にお任せの怠惰な読み方しかしないし、ハードボイルドは男性の
ためのハーレクィン・ロマンスと了解し、サスペンス系は大抵ノレない。
 追いつめられた主人公の焦燥感につき合わなければならないのが、
めんどくさくなるのだ。(そこを面白がらなくて、どこを読むつもり?)

 好きな作家を挙げてみよう。チェスタトン、エドマンド・クリスピン、
ロバート・ファン・ヒューリック、サラ・コードウェル、クレイグ・ライス、
シェリイ・スミス(「午後の死」)、ジョージ・バクスト(「ある奇妙な死」)、
ウッドハウス、シムノン、ウェテリンク、フレッド・カサック...。
 キリル・ボンフィリオリはミステリ作家に入るだろうか?

 ミステリの中に含まれる風俗小説的要素、とぼけた風合い、奇妙な
味わいが好きらしい。どこをとっても推理したり、サスペンスにわくわく
ドキドキしそうもない。

 そんな非サスペンス系ミステリ好きではあるが、「バニー・レークは
行方不明」を面白く読んだ。
 幼い娘を保育園に預けて働こうとする若い未婚の母が、保育園
第一日に迎えにいくと娘がいない。そもそも預かっていないと
言われた若い母(誰しも惹かれる美貌の持主)の焦燥と狂乱の
一夜が描かれる。

 物語は大体、彼女の視点で書かれるが、途中で、園長に頼まれて
彼女の面倒をみる精神科医や、彼らの友人である作家の視点からの
描写が加わるので、わたしでも読み続けられたのだろう。彼女の
視点だけだったら、うんざりして読むのを止めたかもしれない。

 保育園園長とつき合っている精神科医は若く美貌の彼女に一目惚れし、
彼女の焦りに巻きこまれそうになる度に、自己分析して気を落ち着かせる。
 電話で園長に怒鳴ってしまったときは、園長とのつき合いを止めようと
している自分自身に気がつくほどに良心的、誠実な男でもある。

 狂乱した彼女に肩を撃たれた作家は、気が遠くなりかけながら、
精神科医がどっちの女を選ぶかに作家的(?)好奇心を燃やす。
 この発砲事件で彼女は罪に問われないかと、非サスペンスフルな
疑問が浮かぶが、作家は訴えないだろうし、精神科医が彼女の
精神状態について弁護するだろうから、余計なお世話だ。

 原作は1957年刊。この時代のアメリカで未婚の母というのは、
それだけで被害妄想的神経症を起こして当然の条件だ。

     (HPB 2003初 「ポケミス名画座」帯 VJ無)





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by byogakudo | 2013-09-03 14:01 | 読書ノート | Comments(0)


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