猫額洞の日々

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2013年 09月 11日

オーギュスト・ル・ブルトン「男の争い」読了

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 映画になってるのは知っているが見たことはない。原作を読む
のも初めてだが、静かな緊張感を保ちながら淡々と暴力が語られる。
ノアール、というよりギリシャ悲劇を思い出させる小説だ。
 ホラーやノアールの不条理性は、大体ギリシャ悲劇的だけれど。

 1950年代のパリ。やくざたちは古風な掟で自らを律している。
社会の裏で生きる同士、仲間内での裏切りはけして許されず
(裏切った場合の制裁は当然のこととして互いに甘受する)、
反社会的な存在ではあれ、彼らなりの倫理を貫く。敵は殺すが、
女や下っ端は殴り倒すだけで抛っておく。何があっても男同士で
決着をつけ、互いの家族は巻きこまない。

 戦後、新たにノシてきたアラブ系移民のやくざとの間に抗争が
起きる。フランス人やくざが宝石店を襲い、高価な宝石を手に
入れたことをかぎつけ、アラブ系やくざがそれを奪おうと画策する。
新興やくざに文化的伝承はなく、掟や無言のルールはない。だから、
フランス人やくざの幼い子どもを攫って取引の手段に使う。

<フランスのやくざは、そんなあくどいやり口には手を出さなかった。
 アメリカのギャングスターが考えだした手口だ。ここフランスでは、
 やくざの掟に反する行為なのだ。子供をさらうような気を起こしては
 ならないのだ。すべてのアウトローの父親たちがパリじゅうを捜し
 まわっていることを、満腹してぬくぬくとベッドで寝ている善良な
 市民たちが知ったら、さぞかし驚くことだろう。さらに、やくざは
 子供を絶対にぶたない、子供が大きくなってぐれても、絶対に少年院に
 送ったりしないことを知ったら、彼らはもっと驚くだろう。これはまこと
 しやかな嘘だが、やくざという生業(なりわい)の基本にある考えをよく
 表している。>(p180下段~181上段)

 冒頭の第一行から血が流れる。
< はげしい咳きこみがトニーをおそったのはポーカーの勝負の
 最中だった。彼はカードをおいて、手で口をおおった。片方の手で
 ハンカチを取り出し、なかに唾を吐いた。ハンカチは赤く汚れた。>
(p7上段)

 刑務所で重い結核にかかった主人公、トニーの喀血が流血沙汰の
連続を予告する。いかさまポーカーをしたチンピラは銃で殺される。
 アラブ系との抗争では互いに容赦なく銃でナイフで殺し合い、娼婦で
ある、フランスやくざの女たちも強姦され殺される。血まみれの内臓を
肉体からはみ出させながらも掟は守られ、やくざなりの生は完遂される。

 暴力が静かなリアリスムで記述され、読者は悲劇のカタルシスを得る。
いい小説だ。

     (HPB 2003初 帯 VJ無)





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by byogakudo | 2013-09-11 13:48 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2013-09-12 10:14
うん、面白そう。図書館にあるかな。予約枠がいっぱいになってるけれどメモしとこ。
Commented by byogakudo at 2013-09-12 20:11
質素な書きっぷりが、なにかすてきでしたよ。


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