2013年 09月 25日

エド・レイシイ「ゆがめられた昨日」読了

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 ジョン・ボールのヴァージル・ティッブス捜査官は公務員だが、エド・
レイシイのトゥセント(トゥイ)・マーカス・モーアは私立探偵だ。
 黒人で自営なので捜査はもっと困難に直面する。彼は罠に陥り、自分の
無罪を証明するために、逃げ回りながら真相に近づく。

 ジョン・ボールの黒人捜査官の描き方が、わりとストレートに差別は
いけないと主張する作者の姿勢が伝わるのと異なり、トゥセント(トゥイ)・
マーカス・モーアの自意識の描き方はもっと微妙、微細である。より洗練
されている、と言おうか。

 原作は1957年刊。トゥセントが住むのはニューヨーク。TV局に勤める
白人女性、ケイ・ロビンズが実録番組のターゲットの尾行を頼みにくる。
ケチな犯罪歴を持つ男(貧乏白人だ)を、TV視聴者が発見できたら賞金を
出す番組で、ターゲットが逃げ出さないよう見張ってくれ、という。
 ギャラがいい。ちゃんとした事務所の構えられないトゥセントは引き受ける。
しかしターゲットが殺され、死体発見現場に出向かされたのはトゥセントだ。
逃げなくっちゃ。真犯人を探さなければ、自分が犯人視される。そんな
ストーリーである。

 ターゲットの顔と仕事場を教えてもらう前に、ふたりは昼食をとる。
 いくらニューヨークでも白人女性と黒人男性が、白人ばかりの簡易食堂
(キャフテリア)で一緒に食事すれば、目引き袖引きされる。おまけに彼女は
パイプを吸ってみせるので、トラブルが起きる。彼としては、いわゆる男らしい
振舞をしてみせざるを得ない。

< 「ねえ」おれも声をおとして云った。
 「ひとつだけはっきりしといてもらいたいんだ。なにかあるごとに、人種
 平等問題の試験台にされたんじゃかなわないからな」
 [中略]
  「[略]料理がほしいのか刺激がほしいのか、これからははっきりして
 もらいたいんですよ」パイプのこともおれは云ってやりたかった。人々の
 注意をひくのに、おれとパイプの両方はいるまい。しかし、冗談でも云っ
 てるようにおれは笑い、ふつうの声にもどった。
 [中略]
 「なんだかへんなことになったわね。黒人にはよくしようと、わたしはいつも
 心がけてるのに。でも、あなたも気をまわしすぎるわ」>(p43下段~44上段)

 その夜、ターゲットに異常なしと電話すると、彼女は家に来ないかと誘う。
< 「お客さんがきてるの。面白い人たちよ。あなたもやってこない?」
  「ええ、しかし......」おれは顔をなぜた。午後五時の影、つまり髭は二日に
 一度剃ればいいのだが、ちょうどのびていたのだ。 
  おれが躊躇したのを、ケイはほかのことと感ちがいしたらしい。「だいじょうぶ。
 みょうな偏見をもっている人なんかいないから」自分がどんなことを云ってるのか、
 あまりかんがえてもいないのだろう。>(p64下段)

 リベラル意識が、自分の正義感の無神経な押しつけに変るプロセスがよく伝わる。

 ケイの家では作家やTVライターが来ている。
< ある黒人作家の言葉だが、サロン・ゲーム、つまり、黒人問題を彼等は
 おしゃべりのタネにするつもりらしい。黒人問題とか、また黒人社会についての
 問題とかいったことが大好きな白人どもがある。この連中は、おなじ席に黒人が
 いれば、かならずこういった議論をしだす。おれたち黒人が生きていることさえ
 忘れようとしているたいていの白人の態度よりは、このほうがましかもしれないが、
 もう、こんなおしゃべりには、おれはあきあきしていた。>(p68上段)

 その後みんなでナイトクラブに行く。
<インチキじみていようがいまいが、おれはこの雰囲気が気にいっていた。
 自分がペットのネグロの役をけっこう楽しんでいるのを知っても、たいして
 ショックではなかったくらいだ。いや、いくぶんかは、内心恥ずかしかったが
 __。>(p76下段) 

 かなり文学的でもあるミステリだが、あくまでも読み物(エンタテインメント)の
枠内からは外れない作家のようだ。「リングで殺せ」にしても、主人公のボクサーと
その妻の偏執狂めいた個性が活写されていた。

     (HPB 1958初 VJ無)

 ところで、東京ウィメンズプラザってひどい。
『天皇制国家と女性―日本キリスト教史における木下尚江』

 ゲイや性同一性障害関連の本の寄贈も断ってるようだ。女子どもや
少数者に目を配らないのでは、ウィメンズプラザの存在理由がない。





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by byogakudo | 2013-09-25 15:19 | 読書ノート | Comments(0)


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