2013年 10月 20日

F・W・クロフツ「チェイン氏の秘密」読了

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 イギリスの探偵小説は冒険小説に傾きやすい。1926年刊のクロフツ
「チェイン氏の秘密」もそうである。おまけに怪奇小説にも、行こうと
思えば行けそうな書き方だ。

 フレンチ警部ものだが、主人公は若い冒険好きの紳士、チェイン氏。
フレンチ警部が登場するのは残り半分を切ってからで、それまでは
ロマンティックな性向をもつチェイン氏が、詐欺師集団の繰り出す
種々様々な嘘話に翻弄される冒険小説タイプである。

 チェイン氏は彼ら詐欺師たちを充分に疑っているのに、冒険趣味を
刺激されると、その方向に走り出してしまう。最初は爵位継承権の話に
つい騙され、次は画期的な発明話、その間に若い女性との恋愛が入る。
 嘘話の連続に、これはもしやアーサー・マッケン「三人の詐欺師」風に
展開するつもりか、と思うほどだ。

 そうはならず、恋人を誘拐されたチェイン氏が、ようやく警視庁を訪れ、
フレンチ警部に相談してから、やっと探偵小説の軌道に乗る。地道な捜査、
仮説の検証、そしてやはり冒険小説的エンディングを迎える。

 ときどき、クロフツはメタ・ミステリを書くつもりだったのかとも思い
ながら読んだ。意図せずにメタ・ミステリになってしまいそうな感触も
ある。

 詐欺師たちの家に忍び込むための道具を恋人に披露するシーンで、
彼女にからかわれる。
< 「くるぶしまでのアンクレットはお持ちになりませんの?」
 [中略]
  「[略]サメに喰われないようにするためだわ」
 [中略]「あの白馬の騎士が自分の馬のために、身につけていたことを
 おぼえていらっしゃいませんの?」>(p132上下段)

 大詰め、謎解き場面でも、話題が冒険小説に逸れる箇所がある。
モーリス・ドレイクの「ウォー2」という物語だそうだが、フレンチ警部に
言わせれば、
<「[略]私のお目にかかった最上の物語の一つでした。[以下略]」>
(p250下段)

 不思議がるわたしがヘンなのかもしれないが、なんだか妙なミステリを
読んだ気分。楽しかったが。

     (HPB 1963初 VJ無)





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by byogakudo | 2013-10-20 20:26 | 読書ノート | Comments(0)


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