2013年 12月 19日

マイクル・コリンズ「虎の影」もう少し

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 写真は、新富町辺り。Sやわたしにとってはバルテュス空間。
数少ないけれど、都内には足を踏み入れた瞬間、「バルテュス!」
と気づかされる界隈がある。普通名詞では「陋巷趣味」で片づけ
られそうだが。


 マイクル・コリンズ「虎の影」原作は1972年刊行。まだヴェトナム
戦争は終わっていない。登場人物たちは、みなそれぞれに戦争の影を
引きずる。

 戦争で片腕を失った主人公ダン・フォーチューン。殺された親切な
質屋は、ナチ占領下のヴェル・ディヴ事件のとき、我が身可愛さで
何もしなかった大勢のフランス人のひとりであり、戦時中は子ども
だった質屋の弟は、戦後を傭兵として暮し、ヴェトナム戦争時に知り
合った若いタイ人の妻がいる。ヴェル・ディヴ事件の折、ユダヤ系では
ないのに命がけで彼らを救ったフランス人の英雄は、今では英雄伝説を
売り物に、寄食者として贅沢に暮す...。

 第二次大戦中の子ども、戦後は傭兵暮しだった弟が戦争について
述べる。まくしたてる。

< 「[略]おれにしたって祖国フランスの正義を信じ、ドイツとあれほど
 勇敢に戦った男や女を信じて大きくなったんだ。戦わない連中を尻目に
 かけ、自分でも戦争にいった。そして、ヴェトナムで、アルジェリアで、
 おれたちがしでかしたことを自分の目で見たあとで、それもずっとあとに
 なって、やっと知ったんだ。[以下略]」>

< 「[略]ほんの一握りの哀れなフランス人が抵抗しただけなんだ。現に、
 ヒットラー親衛隊に加わった連中の数は自由フランス軍と共に戦った
 フランス人と同じくらいいるじゃないか?
 [中略]
 あの偉大なフランスのレジスタンス組織だって、一握りのイギリス
 諜報員がパラシュートでフランスに潜入してお膳立てしたんじゃ
 ないか! 
 [中略]
 イギリスの諜報員なんだぜ! フランス人の尻を叩いて戦わしたのは。
 ディエンビエンフーの負け戦だってちっとも不思議じゃない、幻影と
 戦うため死に追いやられるのさ。アルジェリアにしても__ヴェル・
 ディヴにしても同じなんだ。
 [中略]
 ヴェル・ディヴか」>

< 「[略]あの夜捕まったユダヤ人はみんなフランスの憲兵に捕まった
 んだぞ! 国家主席のペタンが認め、首相のラヴァルがけしかけた__
 たかがユダヤ人だ、フランス人じゃないってね! 憲兵は有能で、周到で、
 しかも残忍だった。命令を拒んだ憲兵もいることはいるが、そんなのは
 ほんの一握りだ。あとの連中かい? 狐につままれたような顔で、子供が
 死に追いやられていくのに、警官が肩をすくめて目をそむけるのを見た
 ことがあるかね? 数にして一万三千に近い人間が、一九四二年のあの夜、
 ヴェル・ディヴに駆り集められた。それが戦争が終わって帰ってきたのは、
 大人が三十人。四千人からいた子供は一人も帰らなかった。」>

<「[略]ラヴァルにしろ、ペタンにしろ、ハノイやサイゴンやアルジェの悪徳
 政治家とおんなじなのさ。いつの世にも、あいつらは怪物だよ。だが、みんなの
 記憶はうすらぐ。死んだ人間のことは忘れるわけにはいかないがね、パリの
 人間なら、フランス人なら。ほんの一握りだが止めようとした者もいた。ずっと
 数は少ないが救いの手をさしのべた者もいた。だが、オランダ人は自分の国の
 ユダヤ人をかくまった。デンマーク王は黄色い星形を身につけて、毎日、コペン
 ハーゲンの町に馬を走らせたんだ。それなのに、フランス人はユダヤ人刈りを
 やったんだ!」>
(p147上段~148下段)

 まるで過去の日本と、いまの日本についての記述ではないか。
 
     (HPB 1980初 帯 VJ無)

(12月21日へ続く~)





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by byogakudo | 2013-12-19 14:25 | 読書ノート | Comments(0)


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