2014年 03月 09日

ローレンス・ブロック「八百万の死にざま」読了

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 昔ヴィデオで「800万の死にざま」を見た。初めて見たロザンナ・
アークエットがなつかしさを感じさせる個性だったし、主人公の
アル中探偵役、ジェフ・ブリッジスがぴったりだったことを覚えて
いる、いい映画だった。1986年にヴィデオ発売とあるから、たぶん
その頃見たのだろう。そして「泥棒バーニイ」シリーズに凝った
おかげで28年後に原作を読む、というわけ。時は過ぎ去る、いやに
なるほど早い。

 映画はロスアンジェルスを舞台にしているが、原作はニューヨーク。
アル中で死にかけた元警官、現在無職の男は、毎日AA(アルコール
中毒者自主治療協会)に出席することが彼の仕事、とでもいうべき
状況だ。彼の放った流れ弾で少女が死に、それ以来彼は自分を罰する
ことが生きる目的化している。アル中にもなるだろう。
 ローレンス・ブロックはウェストレイクが好きらしいが、自己懲罰的な
キャラクター設定がミッチ・トビン・シリーズを思い出させる。

 身を用なき者と見做しているマット・スカダーは、ミッチ・トビンと
同じように私立探偵免許も取ろうとしない。ミッチには妻子があるが、
マットは独身になり家ではなくホテル住まい、頼まれて探偵仕事をする
だけで、税金を払うような仕事はしない。
 む、マット・スカダーの頭文字はM・S、ミッチ・トビンはM・T。
やはり意識したネーミングかしら?

 ヒモと手を切りたいと願う若い売春婦の頼みで話をつけに行ったら、
拍子抜けするほどあっさり承諾されたのに、彼女は惨殺されてしまう。
 警察はヒモが殺したと考えるが、マットは趣味がよくて話のわかる、
あの男が犯人とは思えない。毎日AAに通いながら、ときには再び
アルコールに手を出し病院に担ぎ込まれながら又AA通いを続け、
マットは捜査をあきらめない。

 体内からアルコールが消えても酔いへの渇望は残る。ドラッグと
違って、酒屋やバーはどこにでもある。色川武大の何かで、シャブ中
だったから長生きできた、アル中はみんな死んでしまったと述懐する
藝人の話があったけれど、その通りだ。
 マット・スカダーは一進一退を繰り返しながら、じわじわと少しずつ
アル中から抜け出す。反比例的に、五里霧中だった殺人事件がクリア
になり、ふたつの物語は合一点に至る。

 泥棒バーニイで明るく軽快に描かれるニューヨークのネガ版が、マット・
スカダー・シリーズなのだろう。

     (HPB 1984初 帯 VJ無)





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by byogakudo | 2014-03-09 20:09 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2014-03-09 22:18
なかばアル中の私にはイリイリするような小説でした。
また読みたくなりました。
Commented by byogakudo at 2014-03-10 12:06
バーでの聞き込みで、相手はお酒を飲みながら、マットはコーヒーや
ジンジャーエールをおかわりしながら、なのが可哀想でしたね。


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