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猫額洞の日々

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2014年 04月 17日

スティーヴン・グリーンリーフ「匿名原稿」読了

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 どうも納得できないエンディングだ。どう納得できないかを
書くには、ストーリーを明かさざるを得ないので、未読の方は
できればこれは読まないでもらいたいが、それでも構わなければ
お読みください。


 サンフランシスコの私立探偵が、友人の出版人から著者を探して
くれと依頼される。

 お金持ちの子弟が通う私立高校で、人望ある教師が生徒を強姦した
として逮捕収監され、服役後に自分をハメた人々に復讐しに行く、
という小説が匿名で、友人の出版社に送られてきた。
 文芸書を出している小さな出版社なのでヒット作が欲しい。文学的
にも読物としても優れているので出版したいが、著者を見つけなければ
契約ができない。

 私立探偵が調べていくと、現実の某私立高校で似たような事件が
あったことがわかる。どうもノンフィクション・ノヴェルらしい。

 ここで大胆に身も蓋もなく端折って結論を言えば、じつは書いたのは
出版人そのひとで、宣伝活動の一環として探偵に調査を頼み、何やら
すごい新人の作品があるようだという噂を広めたかったのだ。
 リベラルなインテリ出版人で、同じく知的な、弁護士上がりの探偵と
反レーガン的な意見を交わしたりしている男が、出版社を続けるための
起死回生作として取った行動だが、そのせいで出所してきた元教師は
返り討ちみたいに殺されてしまう。

 インテリ出版人は自分の軽率な行為で起きた殺人事件に悩まないのか。
刑務所で人格破壊されホームレスに陥った挙句殺された元教師に対して、
慚愧の念は起きないのか。

 ここらの書き方があっさりし過ぎているので、納得できない思いに
駆られる。こんなに調子がよくていいの? 
 出版社は奥さんの資産に支えられて続いているのだが、彼女の資産は、
この事件の黒幕である彼女の元夫からもらったものだ。元夫は彼女に
いやがらせするために画策していたが、事件が明るみに出て失脚した
ので、彼女の資産は守られ、出版社の経営も安定する。

 ここでも、彼女が文学ではなく経営に頭を働かせることが皮肉っぽく
書かれている(わたしは、そう読んだ)けれど、良心的な出版社社主で
ある現在の夫には、探偵はきつく当たらない。探偵も出版人も、そして
このミステリの著者も、脳天気過ぎやしないか? (あるいはたんに、
よくある女嫌いなのか。)

 アメリカの出版事情や小説についての話題は豊富で、その面では面白く
読めるし、ミステリ内ミステリの扱いなども巧いけれど、ひどくご都合
主義な著者設定のせいで、昔の本格ミステリの不自然さを思い出して
しまう。
 なんかヘンよ。モダーンぶっちゃって、機械仕掛けの神や猿しか描け
なかった、ということでしょ。

     (HPB 1992初 帯 VJ無)





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by byogakudo | 2014-04-17 12:31 | 読書ノート | Comments(0)


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