2014年 05月 29日
単行本「パリ、娼婦の館」と「パリが愛した娼婦」の <内容を一部シャッフルし、新たに二冊の>(p283) 文庫本にした一冊が、「パリ、娼婦の館 メゾン・クローズ」である。 もう一冊、「パリ、娼婦の街 シャン=ゼリゼ」を早く買わなくっちゃ、 読まなくっちゃと思わせる。それくらい、わくわくさせて面白い。 こちらは売春施設であるメゾン・クローズと経営者、及び鑑札を持つ 娼婦について。「パリ、娼婦の街 シャン=ゼリゼ」は鑑札のない私娼と 彼女たちが歩き回るパリの界隈について、である。 単行本が出たときも若い女性からの反響が大きかったそうだが、 その理由を鹿島茂は、 <社会の進化により、女性が自己実現のための手段を男性と同じ レベルで獲得できるようになった現在の環境が強く影響している のではないか? [中略] 売買春が、もしかすると、自己実現を目指して進んできた女性の長い 歴史の一行程、であり、とくに高級娼婦のような場合には、ある種の 自己実現の形態ではなかったかという反省が女性のサイドにも生まれて きたからではないだろうか?>(p283)と考察する。 梅毒の蔓延が少子化の原因であり、亡国の病いと考える衛生学者が、 管理売春の必要性に思い至る。経営者(売春業者)・労働者(娼婦)を ともに許可制にして、警察と病院(と修道院)の管理下に置けば、梅毒は このクローズド・サーキット内の問題で済む、と考える。 どんなに細かく規定されたパノプティコン思考の成果であっても、穴や 死角は発生する。梅毒の原因も治療法も確立されない時期に夢見られた ユートピアないしディストピアからの病いは、いくらでも健全なる家庭に 滲出し、厳格なる管理体制の実効性は限定的である。 高級娼館は性行為をするための空間ではない。性的ファンタシーを売る 空間である。インテリアに凝り、どんな性的指向にも応えうるソフト(拷問 部屋や覗き部屋)を揃え、「物語」の中で欲情する変態たちの期待に応える。 この辺りがいちばん華やかで読み応えがある。他は、労働と搾取の実体が 余すところなく記され、あらゆる労働のアーキタイプたる売春について、 観念的でなく、具体性たっぷりに考察される。 (角川ソフィア文庫 2013初 J)
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by byogakudo
| 2014-05-29 18:39
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