2014年 06月 07日

色川武大「あちゃらかぱいッ」抜き書き2

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(~6月4日より続く)

 才能やセンスはあるのに、やる気のない藝人が目に立つ
「あちゃらかぱいッ」だが、エノケンよりさらに小柄な鈴木
桂介は著名なスターにはならなかったが、粘りを見せる。

 日本俳優学校出身で新劇に属していた。赤狩りで転向して
浅草に来る。エノケンが舞台をすっぽかしたときの代役を勤め、
エノケンよりさらにどぎついコメディアンを志す。
 劇団になくてはならない役者になるか、邪魔で邪魔でしょうが
ない役者になるかと考え、後者を選ぶ。お手本はハッタリダンス
の林葉三である。

 東京進出を企てたが、エノケンをひき抜けなかった吉本興業が
鈴木桂介に目をつける。座長旗揚げ公演には、凸凹コンビという
ことで林葉三にも声がかかるが、ふたりとも舞台をこわすタイプだ。
甚だしい不入りの公演が続く。
 鈴木桂介は吉本を止め、エノケンに詫びを入れて松竹座に復帰する。
林葉三は前回書いたように上海で死ぬ。

 東宝系のロッパ劇団から声がかかり、鈴木桂介や昔なじみの土屋伍一、
田和利一(もちろん、タワリシチのもじり)が揃って行く。舞台の化粧
道具をひととおり持っているのは鈴木桂介だけだ。土屋伍一は早速、
山茶花究の跡を襲って、一座の乱子嬢の男妾になる。
< 同じヒモでも、山茶花究は、うまく女を利用して勢いのいい劇団に
 もぐりこんでしまう。伍一はその反対で、未練もなくロッパ一座を
 捨てて、ただのヒモになってしまう。そこが面白い。>(p49)

 乱子嬢とも別れた土屋伍一は鈴木桂介の家に居つく。
<ときどき、ムーランルージュに出たり、臨時に浅草に出たりするが、
 まァごろごろして呑んでいる。
  この上なく暢気(のんき)な男で、新聞も見ない、ラジオもきかない。
 中国大陸で日本が戦争していることも、はたして知っていたかどうか。>
(p51)

 鈴木桂介はロッパと揉めて大阪で鈴木桂介一座をつくる。また上手く
行かない。この頃、田和利一は脊椎カリエスで死亡。

 戦時体制と言わず、あらゆる体勢と無縁に思える土屋伍一だが、
<レコード歌手とちがって、幕内で知られているわりに一般的ヴァリュウが
 乏しく、一本では商品(にもつ)にならずさりとて格下でもない。興行師が
 使いにくいタレントだったのであろう。
  しかし、それよりなにより、伍一自身に、実直に力量を発揮する気が
 まるでないのである。>(p72)
 スカウトに自分を売りこむのに、女に関する実力の話ばかりしていては
駄目だろう。相変わらず自分の部屋を持たず、鈴木桂介家の居候である。

<戦時中を通じて、もっとも当局からにらまれた軽演劇俳優は、関時男と
 清水金一と 鈴木桂介だという。三人とも、即興の動きや、セリフが生命の
 役者で、台本のとおりしゃべるべしという検閲制度ではやりようがない。>
(p87)

 鈴木桂介は仙台で一座をつくる。土屋伍一も加わっているが、召集令状が
来る。伍一はこのときの恋人と東京で結婚して出征する。

 敗戦後の仙台市、食料事情もあって鈴木桂介は農村部のどさ回りをする。
復員した土屋伍一が仙台の桂介家に顔を出し、また居候。結婚した相手は
消えていたが、この一座で伍一は後のヘレン滝と恋人同士になる。名前を
売る気のない、似合いのカップルだ。

 ヒロポン・エイジである。東京に戻った土屋伍一とヘレン滝は、酒と
ヒロポンに惑溺する。銀座で酒場を開くが、アル中でポン中だ。三ヶ月で
潰れた。土屋伍一と手を切るという条件で、ヘレン滝は日劇ミュージック
ホールに呼ばれる。
 土屋伍一は正邦乙彦の横浜オペラ館(横浜・黄金町)に落ち着く。裸の
女とヒロポンの空アンプルだらけのパラダイスである。

 その後、土屋伍一はサンドイッチマンをやったりした後、藝人批評家的
指圧師になる。顔で楽屋に出入りし、指圧を押し売りするのだが、料金
体系が批評的である。若手でも伸びそうだと思うと高く言い、精彩を欠く
大御所ロッパなぞは低料金になる。
< 森繁久彌は、ロッパ一座の直接の後輩だったが、彼に対しては常に
 高値をつけていたという。>(p159)

 鈴木桂介は共産党から仙台市の市会議員選挙に立候補して落選。
戦後は仙台をベースに活動するが、東京で仕事があると、なかなか
帰らない。昔の友だちと昔話をたっぷりしてから帰る。
 土屋伍一がもう駄目らしいと噂をきき、池袋の陋巷を訪ねる。
< 「なんでえ、もう駄目だっていうからよ、来てみたらくたばって
 ねえじゃないか」
  「自分で噂をたててみたんだよ。俺が死んだら誰が来るかと
 思ってよ」>(p164)
 一年後、土屋伍一が本当に死んだ。辞世の句は、
<古池やターザン飛びこみワニ怒る>(p165)

 リヤカーをひっぱるバタ屋になっていたヘレン滝は、その前にすでに
路上で死んでいた。
< 「いいじゃねえか__」
 と伍一はいったという。
  「好きに生きて好きに死んだんだ。他人(ハタ)がアヤつけることは
 ねえ。幕がおりておめでてえや」>(p157)

     (河出文庫 2006初 J)

2015年3月24日へ続く(鈴木桂介の項追加)~





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by byogakudo | 2014-06-07 22:31 | 読書ノート | Comments(0)


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