猫額洞の日々

byogakudo.exblog.jp
ブログトップ
2014年 06月 12日

吸血鬼の館/「ネルケン」

e0030187_2017630.jpg










 高円寺に友だちはいたけれど、わたしは高円寺のひとではない。
名前だけ知っていたクラシック喫茶「ネルケン」に、今日初めて
入った。前に一度Sと入ろうとしたら、レコード・コンサートで
貸切りだった。広くはない店内に中高年男性がずらりと坐っていた。
クラシック・ファンというのも、同じ顔の伝統があるようだ。

 ジャズ喫茶やクラシック喫茶(あるいは名曲喫茶)が、日本中の
ちょっとした街や町に軒並み見られた時期があった。子どもの頃を
過ごした南九州の町にももちろんあった。クラシック系はたいてい、
手作りが感じられるヨーロッパの田舎家風や民芸調が多いようだ。
 憧れとしてのヨーロッパ、思いのたけの込められた、どこにもない
ヨーロッパ、であるので、それはとても日本的である。

 「ネルケン」は記憶の空間だ。ひとびとの記憶を吸血鬼のように
吸い取り、吐き出す。店に入った瞬間、客はこの誰のものでもあり、
誰のものでもない循環系に組み込まれる。わたしの記憶やあなたの
記憶というものはない。わたしたちの記憶の中にいる、わたしたちを
見ることになる。
 可憐な年配のマダムの耳には、白い楕円形の薄べったいイアリング。
彼女はきっとこれを用いて記憶装置を調節しているのだろう。耳ラッパ
みたように。





..... Ads by Excite ........
[PR]

by byogakudo | 2014-06-12 20:48 | 雑録 | Comments(0)


<< 秦早穂子「影の部分 La Pa...      ローレンス・ブロック「泥棒は選... >>