2014年 07月 11日

ローレンス・ブロック「聖なる酒場の挽歌」1/2

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 ああ、ほっとする、マット・スカダーと彼らの街・ニューヨーク。
マット・スカダーがまだ酒を飲んでいた時代、1975年夏の回想である。

 過去を思い出そうとするとき、マット・スカダーは野球やボクシングの
記憶とともに遡る。季語の精神、といってもよいくらいの季節と記憶の
連動だ。スポーツそれ自体は叙事詩かもしれないが、マットの記憶の記述は
叙情である。

 酒場から酒場へ漂う日々に、マットはふたりの知り合いから仕事を
頼まれる。酒場を経営している男からは盗まれた二重帳簿のことで、
浮気してるときに押し込み強盗に妻を殺された男からは、あらぬ濡れ衣
をはらしたい、と。

 昼間は聞き込みに歩いても夜はやはり酒場に向う。マット・スカダーが
なじみのバー・アームストロングの店に行ったら、もうほとんどシャッター
が降りていたがバーテンダーが入れてくれる。

< 「[略]ああ、マット、今がおれには一日で一番いい時間だよ。ここは
 今はおれだけのモリシーの店さ、プライヴェートな終夜営業の店って
 わけさ、わかるだろ? 店はからっぽで、暗くて、音楽もなくて、椅子は
 テーブルにあげてあって、ひとりかふたり話し相手がいて、残りの世界は
 全部閉め出して。よくないかい、ええ?」>(p187)

 この述懐から田中美穂「わたしの小さな古本屋」(洋泉社 2012初 帯 J)
に同じような箇所があったと思い出して、本棚に行く。
 『第3章 お客さん、来ないなぁ』の『父の置き土産』冒頭である。

< 蟲文庫の営業時間は、午前一一時ごろから午後七時ごろまで。
 [中略]
  七時くらいに店を閉め、それからしばらく、営業中にはできないような
 事務や棚の整理などをします。誰にも邪魔されず作業に集中できるこの
 ひとときは、一日のうちで一番と言ってもいいくらい好きな時間です。
 ただ、そんな時間が我がものとなったのは、わりと最近のことなのです。
 [以下略]>(p46)
 
 ひとと、ある時空のあいだに訪れる親密な一瞬。

(07月12日に続く~)





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by byogakudo | 2014-07-11 21:00 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-11 22:06
こうしてパソコンに向かって酔っ払いの探偵の話を思い出しているのもいいなあ。
Commented by byogakudo at 2014-07-12 00:08
次は「慈悲深い死」です。


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