2014年 07月 12日
(~07月11日の続き) マット・スカダーは1985年から10年前、1975年の夏のニューヨークを ふりかえる。たった10年前、もう10年も経つ。どちらでもあるが、ヤッピー だの何だの、みんながナイスになった1985年と、 <当時はお巡りたちも髪を長くのばし始めた頃だった。若い連中の中には 顎髭や口髭をはやし始める者もいた。>(p127) <「[略]ブルックス・ブラザーズのスーツを着た日本人(ジャップ)の会社員 がいっぱいいるけど。あいつらはスコッチを飲み干すたびに互いに写真を 撮り合ってるよ。そしてにんまり笑っちゃおかわりを注文するのさ。なか なかの見物(みもの)だよ」>(P143~144) __いまだヴェトナムの影に覆われた1975年の違いは大きい。 酒場では友だちだが、昼間の互いのことはあまり知らない。そんな間柄の 友人ふたりが、それぞれ事件に巻きこまれ、マット・スカダーに解決の手を 求める。もう一件、IRAと関係しているらしい三兄弟の酒場が、武装強盗に 襲われる事件も起きたが、マットはそれは断る。 街中に銃が出回っているのだけは10年前も10年後も変わらない。 ハードボイルド・ミステリとは、男たちが安心して感傷に浸れるように考案 された装置だと、身も蓋もなく言ってしまってもいいのだけれど、そんな鬼の ようなあたしの目にさえ、マット・スカダー・シリーズに溢れる哀しさと諦観は うつくしく感じられる。 マットは、妻殺しの疑いを晴らしたいと頼んだ酒場友だちの愛人と、成り行き で寝てしまう。男は妻の死後、外聞をはばかって、南部美人の彼女と接触を絶つ。 彼女は男の事情をわからないでもないだろうが、やはり馬鹿にされたことに怒り を覚える。 酔っぱらった彼女を送って行ってマットは彼女と寝るのだが、酒で辛さを紛らす 男と、愛されていない事実を突きつけられた女の、負け犬同士のひとときの交歓が 痛切にうつくしい。 ふたつの事件が解決し、三つ目の事件も派生的に解決した。最後の章は 10年後のいわば決算報告である。酒場友だちのその後、店や街並の移り 変わりが記される。マットの息子たちは大学や軍隊に行き、元妻は再婚し、 そして主人公マット・スカダーは酒を飲むことができなくなった現在である。 (二見文庫 1987年3刷 J)
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by byogakudo
| 2014-07-12 22:20
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