2014年 07月 16日
写真は江戸川乱歩邸だが、水曜日のMercureで読み終えたのは 神西清 訳・チェーホフ「可愛い女 犬を連れた奥さん 他一篇」 (岩波文庫 2001年58刷 J)。 わたしは荷物が多い。外で何が起きるかしれないから、あれもこれも 持って出ないと不安だ。夏はさらに水と日傘が欠かせない。重くなる。 それでも今日は予約なし初診だからかなり待つ筈だ。何か薄い文庫本、 ということで神西清 訳・チェーホフ「可愛い女 犬を連れた奥さん 他一篇」。 「可愛い女」って吸血鬼か、声の妖精・エコーの話だろうか? 男からも 女からも「可愛い女(ひと)ねえ!」と言われるヒロイン、オーレンカだが、 一緒に暮らす男さえいれば、彼女は何についても考えることができ、意見を 述べることができる。相手の男の考えの受け売りでしかないが、その男と いる限り、彼の考えを我がものとして生きていくことができる。しかし、 続けざまに二人の夫を失い、男友だちも遠くに行ってしまった現在、 <彼女にはもう意見というものが一つもないことだった。彼女の眼には身の まわりにある物のすがたが映りもし、まわりで起ることが一々会得もできる のだったが、しかし何事につけても意見を組み立てることが出来ず、なんの 話をしたものやら、てんで見当がつかなかった。ところでこの何一つ意見が ないというのは、なんという恐ろしいことだろう! 例えばびんの立っている ところ、雨の降っているところ、または百姓が荷馬車に乗って行くところを 目にしても、そのびんなり雨なり百姓なりがなんのためにあるのやら、それに どんな意味があるのやら、それが言えず、仮に千ルーブルやると言われたって なんの返事もできないに違いない。クーキンやプストヴァーロフがついていて くれたころも、またそのあとで、獣医がついていてくれた時も、オーレンカは 説明のつかないことは一つもなかったし、どんな問題を出されても自分の 意見を述べるに不自由しなかったものだが、それが今ではむらがる思いの 間(あわい)にも心の内部にも、ちょうどわが家の庭そっくりのがらんどうが 出来てしまっていた。>(p97) 分裂症の話とも読めるけれど、老いて、外見がちっとも可愛くなくなってから 知り合った、獣医の小学生の息子を得て(「得る」としか言いようがない。)、 反響版に過ぎない言語展開能力とはいえ、彼女はふたたび言葉を取り戻す。 やっぱりこれは怪談であろう。
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by byogakudo
| 2014-07-16 21:15
| 読書ノート
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