2014年 07月 30日

ローレンス・ブロック「一ドル銀貨の遺言」読了

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 マット・スカダー・シリーズ第三作「一ドル銀貨の遺言」の
原作は1977年刊。マットがまだ飲んでいた頃の物語だ。

 けちな情報屋がある日、いい服を着て、マット・スカダーの
前に現れる。自分が死んだらこの封筒を開けてくれと、頼む。
 殺されたことが判って、開けてみると情報屋は三人の金持ちを
ゆすっていた。彼らのうちの誰かが手を回して殺したに違いない。
殺人と他の犯罪とを区別するマットを見込んで、情報屋はマットに
頼んだのだ。

 マットはゆすりの引き継ぎ者のふりをして三人と接触する。その
中のひとりは女だ。元々、今も上流社会に属しながら、若いころ、
ポルノ映画や美人局に関わった過去を持つ。
 彼女との二度目の接触は、マットの住むホテル近くのバーで
行われる。ホームグラウンドとも言える「アームストロングの店」
ではないバー、「ポリーズ・ケイジ」で。

<男四人と女ふたりがカウンターについて飲んでいた。カウンター
 の中では、チャックが女のひとりが言ったことに対して穏やかに
 笑っていた。ジュークボックスでは、シナトラが陽気にやろうと
 みんなに言っていた。>(p107)

 容疑者のひとりである女がやって来て、金を準備するのに時間が
かかる、という。
< 彼ら三人に対する私の役まわりが同じなら、彼ら三人の反応も
 またみな同じだった。三人はみな金持ちなのに金はないと言う。
 アメリカという国はほんとうに困っているのだろう。アメリカ経済は、
 みんなが言っているようにほんとうに危機に瀕しているのだろう。>
(p110)

< 彼女は眼を閉じた。私はじっくりと彼女を観察した。店の明りは
 彼女には完璧だった。カウンターについていた男の客のひとりが
 立ち上がり、[中略]出口のほうに向かった。[中略]
 その男と入れかわりに男の客がひとりはいって来た。誰かがジューク
 ボックスに金を入れた。レスリー・ゴーアが、これはわたしのパーティ
 なのに、わたしは今にも泣きそうだと歌っていた。>(p112)

 街角には、三分間写真のボックスが置かれ、今は同じひとつの
ポーズでしか写真が撮れなくなったけれど、そのころのは4枚とも
異なるポーズを取って楽しめた。(プリクラというのを知らないので、
もしかしたら、プリクラ・ボックス?では違う表情の写真が撮れるの
かもしれないが。)

 まだウォークマン以前、喫茶店などにはジュークボックスがあり、
ヒットソングのシングル盤が片面、一曲ずつ聴けた。音楽はそんな
風に共有された。youtubeでの共有は、何回聴かれたかの数字から
共有の現象を確認するが、ジュークボックスのある店内では、共有の
実体が見える。耳にしながら聞き流すひとも含めて。

 街が存在したころの物語である。

     (二見文庫 2000年9版 J)
 





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by byogakudo | 2014-07-30 21:00 | 読書ノート | Comments(0)


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