2014年 08月 23日

ローレンス・ブロック「獣たちの墓」読了

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 <倒錯三部作>の三番目、「獣たちの墓」も陰惨な快楽殺人者
の話である。エグい話をエグいまま書かれては、読者は読むのを
止めたくなるかもしれない。エンタテインメントの場合、陰惨さ
が基調であるなら、それを緩和する対立的要素を物語に呼び込む
必要がある。映画でいえば"ノンストップ・アクション"は退屈至極
で、やっぱり緩急がなければ平べったい映画になるだけのことで
__といっても、こういう古風な美学(?)も今はあまり通用しない
のだろうが__、女を誘拐しては身体の一部を切り取るようなサイコ
キラーの話に不可欠な要素、それはヒューマーとトリックスターだ。

 前作「倒錯の美学」に出てきた黒人少年・TJ(はしっこくて賢い
けれど、42丁目育ちだから大人になるまで生きていられるか不明)
は、マット・スカダーのような私立探偵になることを夢見るように
なり、毎日マットに電話しては、何か仕事をさせろと要求する。

 しつこいTJ攻勢のおかげで、天才ハッカー少年二人組と知り合い、
誘拐犯からかかってきた電話番号を突き止めることができた。
 マットも天才たちから、捜査への執拗さを賞賛される。
<「マット、おたくの手先がどれだけ器用なのか、ブラインド・
 タッチでキーボードが打てるかどうか、それは知らないけど、
 それから、おたくは機械にはあんまり強くないみたいだけど、
 これだけは言えるよ。おたくにはハッカーのハートと魂がある」>
(p240)

 ポケット・ベルが出回り始めたころの物語である。わたしがついに
手を触れることがないまま市場から消えたポケット・ベル。携帯電話
も持たず、スマートフォンも未だ。義母から借りてる10年ものPHSが
唯一のモバイルフォンで、携帯電話なんぞなくとも、生きていける実例
だが、そんなあたしでもmacが好きとか言ったりしてる...。ふむ。

 すてきな高級娼婦・エレインとの恋愛も、じわりじわりと結婚の方向に
進み、彼らが彼らなりに幸福になってくれればと願わせるが、マットの
AAでの知り合いの、アル中兼ヤク中の男もよかった。

 ヘロイン好きだが注射針が怖くて鼻から吸い込むだけ(HIVは心配
しないですんだ、と言っている)が、ヘロイン中毒になり、中毒の
恐怖を紛らわすために酒浸りになった男である。

<フルトン・ストリートの魚市場の近く、再開発された一帯>を通り
ながら、この辺りがいちばんいいのは、
<「寒くて人気(ひとけ)がなくて小雨がぱらついているような、今夜
 みたいな夜が一番だ。ここいらが一番きれいに見えるのは、今夜
 みたいな夜だよ」そう言って彼は笑った。
 「だんだんヤク中のくりごとそのものになってきたね。ヤク中ってのは、
 エデンの園を見せられたって、もっと暗くて寒くてみじめったらしい
 ところがいいって言うのさ。でもって、そこにひとりでいたいってね」>
(p171)

     (二見文庫 2001年初 J)
 





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by byogakudo | 2014-08-23 20:18 | 読書ノート | Comments(0)


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