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猫額洞の日々

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2014年 09月 02日

ローレンス・ブロック「処刑宣告」読了

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~09月01日より続く

 やっと晴れたら、いきなり夏が再開され、じんわり嬉しくなるクリスマス・
ストーリー的エンディングを味わうにはふさわしくない気温だ。紫外線の
心配をしなくてすむとは言え、毎日どよんとした曇り日が続き、さすがに
飽きていた。Sは日曜日の少しの晴れ間に賭けて写真を撮りに行き、歩き
過ぎて帰ってきたのだが、こちらは当分、運動不足を続けよう。同日、紙切れ
コレクションの函を四つ開けただけで、疲れ果てた。

 辛口コラムニストが慨嘆する。法律の網をすり抜ける犯罪者は、なんとも
できないものか、と。コラムに応えるかのように、犯罪者を私的に処罰する
男が現れ、犯行声明に"人々の意志(ザ・ウィル・オヴ・ザ・ピープル)"とある
ことから、彼はウィルと呼ばれるようになる。
 私的な処刑宣告は続き、ウィルは仕事とはいえ、犯罪者を弁護した弁護士
にまで死刑宣告する。

 私立探偵の許可証を得ているマット・スカダーは、殺害を予告された弁護士
から相談を受ける。外国に身を隠すのがいちばんだが、それがいやなら、大手
に頼んでボディガードをつけるように勧めた。ボディガードが自宅の安全を確認
しているのに、彼の目の前で弁護士が毒殺される、という密室殺人事件に始まり、
全部で三つの殺人事件を解決する、名探偵、マット・スカダーである。

 1990年代半ばのニューヨークが舞台なので、手放しで明るい物語ではない
__最初に私的処刑宣告を受けるのは、釈放された、子どもへ猥褻行為常習者
である。__のに、たしかに健全で明るめのマット・スカダーだ。

 ただ、ずっと事故の記憶(犯罪者を殺した銃弾で、近くにいた少女も殺される)
を引きずり、ホームレスに陥る手前、鬱々としたその日暮らしを維持するアル中
探偵、という基本設定だけでは、作者もいつか自己模倣の罠にかかる。

 ハードボイルド・ミステリの主人公が同時に教養小説の主人公になっても、
おかしくはない。ひとは55歳になろうが、ライフスタイルを変えることはできる。
 エレインと結婚し、税金を払う市民になり、最初の家庭生活には失敗したが、
黒人の若者、TJとの関係はまるで養父母と養子である。

 ふっと大好きだったTVドラマ、「ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間」を思い出す。
暗かったり強引過ぎたりするお話を、ティム・ロスの個性で引っ張るTVドラマ
だが、ティム・ロスと娘のホームドラマ部分が面白くて、見ていた面もある。
緩急の塩梅に長けた、アメリカン・エンタテインメントの伝統かしら。

 共同体が人間たちの生きる空間だから、アクション・ヒーローであろうと
家庭生活は描かれてしかるべき、とまでは言わない。

     (二見文庫 2005初 J)





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by byogakudo | 2014-09-02 21:06 | 読書ノート | Comments(0)


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