猫額洞の日々

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2014年 09月 08日

広津和郎「新編 同時代の作家たち」読了

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 このあと既にマット・スカダーを2、3冊__いや、4冊だった__
読んでいるので、広津和郎「新編 同時代の作家たち」、覚えているか
どうか。

 荷風が和郎の父・広津柳浪に弟子入りしたことと、松川事件のとき、
広津和郎は被告たちの書いた文章を読み、文面から彼らが無実だと
判断した、文学者として正しい判断基準を持つ人、この二つしか知ら
なかった。

 真面目そうな、ということは、ともすればくそ真面目で退屈で、わたしに
縁のない一連の作家たちのひとり、だと思いこみ、初めて読んでみたら、
渋いヒューマーがいい、大人の作家ではないか。長谷川如是閑とか宇野浩二は、
わたしの分類では好ましいヒューマー作家だが、新たに広津和郎が加わった。
 子どものとき、名作全集の類いはすべて退屈に違いないと思い定め、避けて
生きてきたから今頃になって発見しなきゃならない。

 芥川龍之介を回想する『あの時代__芥川と宇野』が冒頭に置かれている。
これでイカれた。

 それほど親しくなかった芥川だが、会合で会えば、隣り合って坐る。
<同じ年代に東京の中学生だったために、二人の言葉に共通なものが
 あったからかも知れない。
 [中略]
 彼と私とは同じ中学ではなかったが、[中略]ヤンチャな物のいい方が
 何の註釈なしに互に通用する。その言葉で無遠慮に話し合う事は、
 たしかに気易くて一種の快感なのである。>(p8)
 都会っ子同士のウマの合い方だろうが、軽やかに談笑できていた時代は
短い。じきに重苦しさが立ち籠める。芥川も宇野浩二も神経症患者として、
いやな時代に反応する。

 明治以来「ガンバラナクッチャ」で驀進してきて、少し落ち着き、やっと
自己相対化が可能な時期になると、戦争が起きる。日本のモダーニズムは
長く生きられない。第二次世界大戦の敗戦後は、リセット版「ガンバラ
ナクッチャ」の勢いでやってのける。資本主義の行き詰まりはいつも戦争で
解消してきたので、安倍晋三の類いはその先例に倣う。
 富を蓄積して利子で生きていこうとする国家的意志はないらしい。日本に
保守主義は存在しない。じつは短期間にでっち上げられたものでしかない
"伝統"を墨守するのは、歴史修正主義者による陰謀だ。

 時代を元に戻す。作家たちは、表現者たちは、心身を痛めつけられる。
芥川は幻覚に悩まされ、落ち着いた性格の広津和郎でさえ不眠症を
悪化させる。宇野浩二の躁病がコミカルに記述されるので__宇野を
精神病院に入院させようと文学者仲間が右往左往する様子はドタバタ
喜劇さながらである__それが却って、描かれていない芥川龍之介の
苦痛や悲鳴を感じさせる。
 静かに淡々と書かれているので、広津和郎が芥川龍之介や宇野浩二へ
抱く思いがしみじみと伝わり、一気に好きな作家になった。

 ちくま文庫辺りで文庫版・広津和郎全集を出さないかしら? 岩波は
「ワイド版 岩波文庫」を出しているから、普通の岩波文庫の復刻は、
手間を省いた元版・元活字サイズ(老眼には小さい!)でかまわない
とでも思っているのか、老人に不親切で困る。

     (岩波文庫 1992初 J)





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by byogakudo | 2014-09-08 18:00 | 読書ノート | Comments(0)


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