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猫額洞の日々

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2014年 09月 14日

フィリップ・K・ディック「空間亀裂」読了

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 2080年、世界は人口爆発と仕事の減少という問題を抱えていた。
人口増加を抑えるために娼館衛星が地球の周りを回り、避妊や中絶
が勧められている。
 多数の貧民層対策として、人工冬眠して仕事が増える時期を待つ
方法が取られているが、今度は、冬眠倉庫の維持管理費用が国庫を
圧迫する。

 そんな時代に(アメリカ?)史上初めての黒人の大統領候補が現れた。
これらの問題を解決するために惑星植民政策の再開を打ち出した折しも、
超高速移動機内の微細な亀裂が異世界に通じていることが発見される。
ここに移住すれば人口増加も冬眠倉庫費用問題も解決するじゃないか!

 彼がこれを政策の要にしようとしたら...あれこれドタバタが始まる。
平行宇宙を背景に、生臭い政治や人事、娼館衛星を経営する結合双生児
との死闘や超高速移動機会社の思惑などなどが描かれ、他にはディック
なので夫婦間の軋轢の話なぞも絡んで、ごちゃごちゃしながらもエンディ
ングに突入する。

 後期ディックみたような神学性はないが、私SFとして夫婦間のトラブルは
しっかり存在する1966年原作刊行のディックである。
 ヒッピーの時代を反映して、アリスとハリー・パーチについて言及される。

 超高速移動機内に微細な亀裂を発見した修理工・エリクソンが穴の内部に
入る場面__

< エリクソンは亀裂に頭から這い入っていった。
  腹這いになり、つかまるところを探す。が、落ちてしまい、強く尻餅を
 つき、毒づいた。目をあけると、上のほうに薄青色の空と散り散りの雲が
 見えた。まわりは茂みに囲まれていた。蜂が、あるいは蜂のように見える
 虫が、長い茎(くき)の先についた皿ほどの大きさの白い花のまわりを飛び
 まわっている。花からただよっているのか、空気が甘い香りにあふれている。>
(p73)__アリス・イメージだ。

 黒人大統領が誕生したら国務長官にしてもらおうと野心を燃やす私立探偵も
いる。何しろ30人くらい出てきて、それぞれ野心や思惑があるので、書こうと
思えば30通りの平行する物語だって書けそうな気がするが、深夜、探偵は
書類を読みながら音楽を聴く。__

< テープ・レコーダーから流れている音楽は、二十世紀中葉の偉大な作曲家
 ハリー・パーチの霧笛演奏曲のひとつだ。この霧笛というのはハリー・パーチ
 が<戦争の賜物(たまもの)>と呼んでいた楽器で、いわゆる実験用の霧笛と、
 鑢(やすり)と、新型の演奏用鋸(のこ)と、砲弾の外殻とからなり、それらを
 異なった周波数で共鳴するように吊るして演奏する。さらに基底低音を受け
 持つものとして、パーチが発明した内部が空洞の竹で作ったマリンバに似た
 楽器が加わり、これが精妙なリズムを刻む。この曲も近年非常に人気が出て
 きた曲のひとつだ。>(p165)

__最後の行の「近年」は、2080年ではなくて執筆年の1966年ころのこと
かしらと、つっこみたくなるが、それを始めたら際限がない。

 Harry Partchを知らなくて、実在の人なのかと検索したらYouTubeに出ていた。
もっとヘンテコかと予想していたが、そうでもない。50年代から60年代にかけて、
好まれそうな音だと思う。

     (創元SF文庫 2013初 J)





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by byogakudo | 2014-09-14 17:02 | 読書ノート | Comments(0)


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