猫額洞の日々

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2014年 10月 31日

(5)高見順「敗戦日記」読了

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~10月30日より続く

 不思議な「薨去」の使い方があった。
 5月2日:
< 七時のラジオ報道でヒットラーの薨去(こうきょ)が報ぜられたと
 母がいう。
 [略]
 海外情報は[中略]ヒットラーの薨去に関しては、何も言わない。>
 5月3日:
< ヒットラー薨去が報ぜられた。>(p187~188)
 ヒトラーはドイツ国家のトップだったから、この頃は「薨去」を用いたのか?
新聞記事の引用でもあれば、普通の用法だったか判断しやすくなるだろう。

 8月15日前後の右往左往は、山田風太郎「戦中派不戦日記」に記された
ものと似ている。

 8月16日:
< 黒い灰が空に舞っている。紙を焼いているにちがいない。__東京から
 帰って来た永井君(註=永井龍男)の話では、東京でも各所で盛んに紙を
 焼いていて、空が黒い灰だらけだという。鉄道でも書類を焼いている。戦闘隊
 組織に関する書類らしいという。>(p315)
 東ドイツ・シュタージは書類を残していたから、その後、追求することができた
のだけれど、日本国では、すべて水に流したり焼いたりして、チャラにできると
信じられているのだろう。一神教と多神教のちがいと片づけていいものか。

 8月19日:
< 中村光夫君の話では今朝、町内会長から呼び出しがあって、婦女子を
 大至急避難させるようにと言われたという。敵が上陸してきたら、危険だと
 いうわけである。
 [略]
  自分を以て他を推すという奴だ。事実、上陸して来たら危い場合が起る
 かもしれない。[中略]
 しかし、かかることはあり得ないと考える「文明人」的態度を日本人に
 望みたい。かかることが絶対あり得ると考える日本人の考えを、恥かしい
 と思う。>(p323~324)

 28日、銀座のビアホールで、飲食店団体関係者から聞いた話。
<警視庁から占領軍相手のキャバレーを準備するようにと命令が出たこと。
 「淫売集めもしなくてはならないのです、いやどうも」「集まらなくて大変
 でしょう」「それがどうもなかなか希望者が多いのです」「へーえ」>(p338)

 8月29日:
< 東京新聞にこんな広告(註=特殊慰安施設協会の名で「職員事務員募集」
 の広告)が出ている。占領軍相手の「特殊慰安施設」なのだろう。今君[注:
 今日出海]の話では、接客婦千名を募ったところ四千名の応募者があって
 係員を「憤慨」させたという。>(p340)

 9月2日:
< 横浜に米兵の強姦事件があったという噂。
  「負けたんだ。殺されないだけましだ」
  「日本兵が支那でやったことを考えれば......」
  こういう日本人の考え方は、ここに書き記しておく「価値」がある。>(p345)

 9月6日:
< 神奈川県の女学校、国民学校高等科女子生徒の授業を所によっては停止
 することになった。進駐軍の横行に対する処置なのだろう。>(p347)
 
 9月9日:
< 米兵の婦女拉致の噂を街で聞くが、新聞にも出ている。>(p350)

 10月5日、ムッソリーニの逆さ吊り死体写真の話から、日本人はそれは
しないけれど、
< 日本人だって残虐だ。だって、というより日本人こそといった方が正しい
 くらい、支那の戦線で日本の兵隊は残虐行為をほしいままにした。
  権力を持つと日本人は残虐になるのだ。権力を持たせられないと、子羊の
 如く従順、卑屈。ああなんという卑怯さだ。>(p371~372)

 11月14日、銀座に行き、松坂屋横に Oasis of Ginza、下にR・A・A(Recre-
ation & Amusement Association) と書かれた派手な大看板を見つける。
 地下二階までは日本人も入れる。地下三階が「連合国軍隊ニ限ル」と貼紙
のあるキャバレーだ。

<「支那人と犬、入るべからず」という上海の公園の文字に憤慨した日本人が、
 今や銀座の真中で、日本人入るべからずの貼紙を見ねばならぬことになった。
 しかし占領下の日本であってみれば、致し方ないことである。ただ、この禁札が
 日本人の手によって出されたものであるということ、日本人入るべからずのキャ
 バレーが日本人自らの手によって作られたものであるということは、特記に値する。
 さらにその企画経営者が終戦前は「尊王攘夷」を唱えていた右翼結社である
 ことも特記に値する。
  世界に一体こういう例があるのだろうか。占領軍のために被占領地の人間が
 自らいちはやく婦女子を集めて淫売屋を作るというような例が__。支那では
 なかった。南方でもなかった。懐柔策が巧みとされている支那人も、自ら支那
 女性を駆り立てて、淫売婦にし、占領軍の日本兵のために人肉市場を設ける
 というようなことはしなかった。かかる恥かしい真似は支那国民はしなかった。
 日本人だけがなし得ることではないか。
  日本軍は前線に淫売婦を必ず連れて行った。朝鮮の女は身体が強いと言って、
 朝鮮の淫売婦が多かった。ほとんどだまして連れ出したようである。日本の女も
 だまして南方へ連れて行った。酒保の事務員だとだまして、船に乗せ、現地へ
 行くと「慰安所」の女になれと脅迫する。おどろいて自殺した者もあったと聞く。
 自殺できない者は泣く泣く淫売婦になったのである。戦争の名の下にかかる
 残虐が行われていた。
  戦争は終った。しかしやはり「愛国」の名の下に、婦女子を駆り立てて進駐軍
 御用の淫売婦にしたてている。無垢の処女をだまして戦線へ連れ出し、淫売を
 強いたその残虐が、今日、形を変えて特殊慰安云々となっている。>(p426~427)

     (高見順「敗戦日記」 中公文庫 2005初 J)


(1)高見順「敗戦日記」
(2)高見順「敗戦日記」
(3)高見順「敗戦日記」
(4)高見順「敗戦日記」
(5)高見順「敗戦日記」





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by byogakudo | 2014-10-31 14:05 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2014-10-31 23:14
やっぱり読むべきですね。
安倍たちにも読ませたい。
Commented by byogakudo at 2014-10-31 23:53
安倍晋三の一味にこそ、読まれるべき本です。


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