猫額洞の日々

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2014年 11月 09日

秋尾沙戸子「ワシントンハイツ GHQが東京に刻んだ戦後」読了

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~11月07日より続く

 『第十三章 諜報部員「ニセイ・リンギスト」』では、白人国家・アメリカで差別された
日系アメリカ人(二世)が、アメリカ社会で実力を発揮するために、あるいは戦時の収容所
暮らしから逃れるために従軍し、対日諜報活動を行なった様子が描かれる。

 二世をスカウトするときの殺し文句が、「君の国[注:アメリカ]が君を必要としている」
(p415)。アメリカ人として育ち、考え方や意識はアメリカ人なのに、東洋系の外見から
劣った存在と見られ、生きてきた青年が、白人国家・アメリカで生き延びるためのひとつ
の手段として、日本語力を活かした軍人になる。
 UCBの大学院生だったときに声をかけられ、従軍したシゲヤ・キハラの弟、ハヤト・
キハラが語る。
< 「兄がリクルートされたのは、真珠湾攻撃の二ヶ月も前のことです。不思議でしょう、
 日本に攻撃される前から米軍では語学兵を育てる準備ができていたのですから」>
(p412)

 こんなに用意周到なアメリカだが、占領後に日本中に米軍兵士用・家族住宅を
2万戸造るよう、日本国に命じて初めて、日本には予算が残ってなかったことを知る。
 米軍用住宅が必要とする資材、たとえば電線は、日本の資材計画の150%であり、
鋳鉄管では574%を占める。日本政府は急いで「終戦処理費」を計上したが、190億円
の予算を捻出するのが精一杯である。昭和21(1946)年度の日本の国家予算が1191億円
のときの190億円だ。
 日本政府は2万戸を1万戸に値切る。
< <米軍としては、日本があれだけの大きな戦争をやったのだから、経済力は
 まだ温存されていたと考えていたようだ。こんなことがあって、かれらも初めて
 日本の経済規模の小さいことを知った> (『占領軍調達史 占領軍調達の基調』)>
(p210~211)

 『第十五章 瓦解したアメリカ帝国』は、昭和35(1960)年の安保改正と岸信介に
ついて述べる。
 大規模な安保改正反対運動が起きたが、
< その運動の実質は、反米感情というよりも、新安保を結ぼうとしている岸信介
 への反発のほうが強かった。役人として満州の軍事化を進め、東条英機(ひでき)
 内閣では商工相、軍需省次官などの要職にあった岸は、A級戦犯として巣鴨(すがも)
 プリズンに入れられていた。その岸のことだから、再び日本を戦争へと導こうとして
 いるのではないか。日本国民の「直感」を刺激したといえる。[中略]
 戦争を肌で経験した世代が体を張って、日本を守ろうとしたのだった。
 [中略]
 二〇〇八(平成二十)年に出版された邦題『CIA秘録』は、日本国民の嗅覚(きゅうかく)
 が正しかったことを匂(にお)わせる。
 [中略]

  <岸は当初は舞台裏で仕事をし、先輩の政治家に首相の地位を譲っていたが、やがて
 自分の出番がめぐってきた。岸は日本の外交政策をアメリカの望むものに変えていくこと
 を約束した。アメリカは日本に軍事基地を維持し、日本にとっては微妙な問題である
 核兵器も日本国内に配置したいと考えていた。岸が見返りに求めたのは、アメリカからの
 政治的支援だった>

  著者の[中略]ティム・ワイナー氏によれば、岸はCIAが「親米」指導者にするために
 選んだ政治家であり、戦犯を免れさせてすぐから、CIAが金とアメリカ人脈を提供
 しながら親米に「育てた」日本の総理候補だったという。各国で親米為政者を育てる
 のは、アメリカ外交の常套(じょうとう)手段である。
  つまり、新安保条約締結は岸の執念というより、それを締結するために送り込まれた
 政治家としての使命であったということになる。彼には民衆の命を犠牲にしてでも締結
 する以外に道はなかった。当時、岸がテレビカメラの前で、「私には声なき声の支持が
 ある」と述べる有名なシーンがあるが、CIA文書が正しければ、それは民衆ではなく、
 まさにCIAを指していたことになる。もっとも、CIAの「あやつり人形」のフリをして、
 日本により有利な安保条約締結を目論(もくろ)んでいたなら、さらに話は面白いが、
 真相は明らかにされていない。>(p456~457)
__最後の一文の、皮肉な用心深さが秀逸だ。

 ヒトが言語というウィルスなしには思考できない存在であるように、アメリカという
ウィルスは日本と日本人に寄生する。日本人であるあたしは、アメリカ的なるもの
から身を振りほどいて存在することはできない。だって骨絡みだもの。
 占領状態が続く日本国解題レポートである。いい本だった。

     (秋尾沙戸子「ワシントンハイツ GHQが東京に刻んだ戦後」
     新潮文庫 2009初 J)





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by byogakudo | 2014-11-09 17:18 | 読書ノート | Comments(0)


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