猫額洞の日々

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2014年 11月 14日

ジャネット・フラナー「パリ点描 1925-1939」ほぼ読了

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~11月13日より続く

 現在読んでるのは1938年。いよいよ戦争が近づいている。
『この時代の平和』と題したコラムが、10月2日、12日、25日
と連続し、1939年に入ると、『この時代の平和』(続報)が1月
12日、『戦雲』(2月2日)、『大脱出』(スペイン内乱)(3月1日)、
『旅程』、『公式訪問』(4月1日)、『パリ伯爵』と、ほぼ戦争
関連の話題に占められ、最後のコラム・タイトルは、ふたたび
『この時代の平和』で終わる。

 病いには、いったん発症すると激烈化する病いがあるが、それを
社会に敷衍すれば、戦争である。最初は小さな紛争があちこちで
起きていると見えるが、やがて火が火を呼んでひとつになり、全面
戦争になる。殺戮・強奪・破壊・壊滅、それらを避けるために外交が
あるはずなのに、いったん始まってしまった戦争を終結させるには、
戦闘行為が必要になる、不毛な循環だ。

 あえて1935年の『ジャン・コクトー』を引用する。

< 出版されたばかりのジャン・コクトーの『肖像と回想』は半傑作
 (ドゥミ・シェドゥーヴル)である。「詩的な激しさ以外は受け入れない」
 子ども時代の目で見た青春の情景を扱った前半は、最高のコクトーだが、
 おとなとして無理やり回想している後半は、苦心の跡がありありでぎこち
 ない。しかし、軽快な言葉の力とあっと思わせる軽業師のような文才を
 発揮して、洗練された筆致で情熱をもって正確に前半を書いたことは、
 このパリと時代の雰囲気に今一度、自分ではないような自分の影法師を
 署名のように記したということなのだ。この作品で描いているのは、ラ・
 ブリュイエール通りの個人ホテル(オテル・パルティキュリエ)で暮らす
 裕福な家庭に育ったパリっ子少年の思い出という、希有なものだ。祖父の
 浴室には純銀のバスタブがあり、「ゴングベルが鳴り、靴と本であふれて
 いた。祖父はギリシアの胸像、アングルのデッサン画、ドラクロワの油絵、
 フィレンツェのメダル、聖職者の肉筆、アンティノウスのマスク、キプロス
 出土の壷、ストラディヴァリのヴァイオリンを収集していた」
  祖父は音楽を愛好し、専用の四重奏団をもって楽しんでいた(本人も
 加わって演奏するようになった)。第一ヴァイオリンは巨匠サラサーテで、
 赤い手袋をはめ、「その大きな口髭、灰色のたてがみのような長い髪、飾り
 ボタンのついたコート、さながらライオン調教師の衣装をつけたライオンの
 ようだった」。第二ヴァイオリンのシヴォリは矮人(わいじん)で、ディナーの
 席で自分の椅子にベートーヴェンの楽譜が置かれているのを見て、その椅子に
 座るのを断った。チェリストのグレベールは、休みなく猛烈な勢いで演奏し、
 コクトーの祖母がサロンを通りかかるたびに、立ち上がって丁寧におじぎをした
 ものだ。等々__魅力あふれるエピソード満載である。オペラ鑑賞にドレスアップ
 した母親(フランス人の子が親のことを書いたものとしては、最もその人物像を
 彷彿させる様式化された描写のひとつといえる)。『八十日間世界一周』の初演。
 アンモニアの臭いがし、道化師が売り物だった昔の「新サーカス団」。戦前流行
 したパレ・ド・グラスでのスケート。「大雌鳥(グランド・ココット)」と呼ばれた
 女性たちの衣装(コルセット、ガセット、ペチコート、バッスル、パッド、羽根飾り、
 ガーター、宝石と、あまりに込み入っているので、前もってよく考えておかなければ
 手痛い目にあう仕事だった」)。若き日のコレットを指して「スカートをはいたフォッ
 クステリアみたいな」といった表現のように、このコクトーの本のこうした言い回しや
 描写はいっときの楽しみを与えてくれる。>(p294~295)

     (ジャネット・フラナー/吉岡晶子 訳「パリ点描 1925-1939」
     講談社学術文庫 2003初 帯 J)

11月15日に続く~

 Chrisma (Krisma) Aurora B. (from Hibernation LP, 1979) 

 Chrisma-LOLA





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by byogakudo | 2014-11-14 20:03 | 読書ノート | Comments(0)


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