2014年 11月 27日

平山盧江「つめびき」もう少々

e0030187_20531598.jpg












~11月26日より続く

 第三章 『縁』にある<同盟を衝く>とは、つまり回状を回すみた
ようなことだろう。

< 娘を芸者に住み込ませる多勢の親たちの中には、前借だけを目当に
 話を持ち込んで来るものが随分あつた。七年でも八年でも年期をつけ、
 貸してくれるだけの金を借り込んで素直に住込みをさせたあとで、親子
 なれあひで逃げ出させ、更に又別の主人を求めて第二の借金をさせると
 いふ風に、何遍でも借り込み何遍でも籠ぬけをすることに目的を立てた
 ひどいのが相当にあるので、芸者屋側では全国的に芸者屋組合をつくり、
 組合規約の力で、かうした食はせものに引かからぬ手配(てはい)をし
 はじめた。その事を「同盟を衝く」といつてゐる、おみよはそれに
 引かかつてゐるにちがひないと、女将[注:再デビューの相談に行った
 待合「うす墨」の女将]は睨んでゐるのであつた。>(p79)

 100円の前借金を半年後、350円以上払って返したのに、ブラックリスト
に載ってるなんてそんな馬鹿な、と驚く、おみよと父親(と読者)であるが、
今回も「うす墨」の女将が代行処理をしてくれる。

 見番(けんばん)に問い合わせると、やはりリストに上がっているので、
女将は、
< 「[略]どうでせう、五十円ほど差し水をして下さいませんか、どうも
 見込まれたが因果です」>(p80)

 女将は次の就職先(住み込んで働く芸者屋)も紹介してくれたので、おみよ
たちはそこで200円前借りして、その中から50円を持って、おみよ/やや子が
勤めていた芸者屋「浪花家」を訪れ、リストから外してもらおうとする。
 「浪花家」は芸者屋を止めて、郊外に暮していた。

< 「もうそろそろ[注:踊り字表記]舞戻つて来る時分だと思つたよ。よく
 来ておくれだつた」
  大層機嫌よく父にも女将にも愛想がよかつた。
  決して悪気で同盟を衝いたわけではない。実はあのままではいろいろ[注:
 踊り字表記]やりにくい内輪の事情があつたので、一旦打切りにして改めて
 出なほさうと思つた。出直すとすればどうしても昔なじみの力がほしいので、
 わざと同盟を衝いておみよを再び自分のところへ引戻すつもりだつたので
 など、あつさり種明かしをしたあとで、
 [中略]
  こんな風で、用意しておいた包み金も快く受け、同盟の方もすぐに解いて
 くれたので幾日も経たぬ中に、おみよは一人前の芸者として音羽屋菊丸と
 名乗つて出る手筈が出来た。>(p81)

 自分の都合でブラックリストに載せる非礼を働きながら、差し出された50円を
<快く>受け取るのが、生野暮だもので、理解できない。押し戻すのも角が立つ、
かもしれないけれど、野暮天側としては納得できない。お金を差し出して謝罪
するのは芸者屋・旧「浪花家」側ではないかしら?
 それとも、お酌・やや子を仕込んでくれた、一種、親代わりみたような立場
だから、娘分からの上納金は<快く>受け取るべき、なのか? ここらの呼吸や
心意気は、どうにも理解し難い。
 まあ、50円全額が旧「浪花家」の手元に残るとは思わない。芸者組合や見番
にも廻るだろうと思うけれど、割り勘がいちばん、と信じる合理・原理主義的
生野暮には心意気の代数や税務処理は不可解だ。

 今は音羽屋菊丸と名乗る、本名・みよ/お酌・やや子は、客を取る行為も肯定した。

<蔭のおざしきの事も、所詮は習はうより慣れろで、一年二年と経つ中にこれも
 この世のなりはひの一つと思ひ捨てるあきらめもつき、左程苦にはならない
 ところまで来た。
 たつた一つ、思ふやうにならないのが種銭(たねせん)に借りた借金の二百円で、
 これが減らすとは殖え、減らすとは殖えして丸二年ごしをどう奮発しても、どう
 手許をつめても自前の看板をあげるところまで行き得なかつた(何と云つても好い
 旦那といふ後援者が出来ないことにはねえ。自力一本では無理だわ)うす墨の
 女将はいつもさう云つて、(まア待つておいで、その中にはあたしの家で好い
 旦那をつけてあげるから)と力瘤を入れつづけてゐるのだつた。>(p84)

 明日は、つましく、おいしく、経済的な天ぷらそばの食べ方を書き抜こう。

     (平山盧江「つめびき」 住吉書店 1952初 J)

11月28日に続く~





..... Ads by Excite ........
[PR]

by byogakudo | 2014-11-27 22:08 | 読書ノート | Comments(0)


<< 平山盧江「つめびき」読了/鈴木...      平山盧江「つめびき」3/4 >>