2014年 11月 30日

K・K夫人__野音と日比谷公会堂の夏

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 療養が続くバレエのK・K夫人から電話をいただく。先日より調子が
よさそうで、少し安心する。治療は、最終的には身体の状態をよくする
けれど、その途中で具合が悪くなったり、また体調が上がったり、ムラ
がある。
 自分で経験してみて、それは分かった。体調が下がっていく中でも、
日々、今日は多少、調子がよかったり、次の日はまた悪かったりで、
進んでいった。

 K・K夫人に日比谷公園の話をした。彼女はバレエ団にいた当時の話で
返してくださる。

 敗戦後、みんなが文化的な飢えや渇きを満たそうと熱中していた頃、
バレエ団の夏場の公演となると、K・K夫人の出番が殊に求められた。
 「なんだか涼しそうな顔して出てくるんですってさ」

 バレエなどの身体表現の実体は重労働に決まっている。でも表現行為たる
もの、努力してるのが外から見えてはならない。重力なんて存在しないかの
ように、あくまでも見た目は軽々と、難なく何てことなく演ってるように
見えなくてはならない。

 だから真夏の、冷房装置はまだなく、天井に吊るした扇風機で空気をかき回し、
客席では扇子を遣うくらいしか暑さ対策のない日比谷公会堂で、あるいは野天の
(さすがに夕方からの公演だと思うが)日比谷野外音楽堂で、K・K夫人は涼やかに
舞った。身体中、汗だくになりながら。
 「新聞の批評では、『一陣の風が吹いたようだ』って書かれたのよ」

 特に野音ではオーケストラ・メンバーは全員、首にタオルを巻いて汗を拭き拭き、
楽器に飛び散る汗も拭きながら演奏し、舞台では汗で張りついた衣装を身につけた
K・K夫人やバレエ団主宰者が、オーケストラ・ピットに汗を飛ばしながら、涼しく
「ブルー・ダニューヴ」を踊る。演る方も見る方もイノチガケなのは、べつに近年の
EP-4ライヴだけではないな、とも思うけれど、ともかく敗戦から少し経った当時は、
暑さなんぞ忘れてしまえる、喜びだっただろう。

 日比谷公会堂のモギリのおばさんも彼女の出番になると扉口に見にきて、
 「涼しそうにしてる」と評し、K・K夫人の叔母上は、
 「あんたが出てくると(客席の)扇子が閉じられるのよ」と教えてくれる、
そういう爽やかなパフォーマンスだったそうだ。暑苦しくない、というのは
どんなジャンルでも好ましい。(効果としての暑苦しさ使用は別。)





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by byogakudo | 2014-11-30 20:39 | 雑録 | Comments(0)


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