猫額洞の日々

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2014年 12月 04日

「ローレンス・ブロック傑作集 2 バランスが肝心」を読んでみよう

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 短篇集を遡り、「ローレンス・ブロック傑作集 2 バランスが肝心」
にしてみる。これも安くて(と言っても1円ではない)状態の悪い
通販本。わたしがコンディションを書くなら、<カヴァ背上端傷み
小口ヤケ・少ヌレアトに由る波打ち>になるだろうか。

 あまぞんに出される低価格中古品のコンディション説明のトレンド(?)
は大体、
<中古品につき、汚れ、焼け、しみ、いたみ等がある場合がございます。>
と逃げを打ち、これでは何も言ってないに等しいが、届いてみてひどい、と
思って返品の可否を問うと、返金するから本はそちらで処分して、となる。
 1000円以下の本で着払い返品をやっていたら、却って出品側の負担が
増えるので無理もない返事だし、500円以下の本をいちいち丁寧にチェック
していたら大量出品なぞできやしない。と分かってるけど、あずましくない。

 あまぞんの出品者評価欄という、ときに地雷に化けるシステムも問題で、
あれのせいで、出品側が過剰反応して、予防的措置を講ずることになる。
互いが互いを監視する息苦しい資本主義経済の成れの果て、の風景の
ひとつに過ぎないことだけれど、注文して出品者からメールが来る場合も
(低価格本は、あまぞんからのメール通知のみで終わることが多いが)、

<この発送通知メールの後、1週間経っても届かないようでしたら、
 出品者にご連絡ください。また、出品者評価欄に3以下を記されますと
 評価が下がり、営業上、迷惑いたします。4か5以外の評価は、ご遠慮
 ください。問題があるときは、まず出品者にご連絡ください。>
といった内容と文体のメールが来たことがある。

 一読、とても日本語の発想で書かれた日本語と思えなかったが、時代は
ここまで単刀直入な日本語を必要とするに至った。一対一での売買では
ないので、お互い疑心暗鬼合戦になるしかない、不幸な時代だ。

 「ローレンス・ブロック傑作集 2 バランスが肝心」最後の一篇は、マット・
スカダーものだ(また、ランダムに読んでいる)。まだお酒を飲んでいるころの
マット・スカダー・シリーズの長篇のどれかに、ひとこと、バッグ・レイディの
新聞売りの話が出てきた。定価で買って定価で売るので、あまりいい商売では
ないと、マットは思う。ただそれだけの話の背景を描いた短篇が『バッグ・
レディの死』(田口俊樹 訳)だ。

 惨殺された新聞売りのバッグ・レイディは、じつは25万ドルも残した資産家
だった。マットは彼女の顔だけ知っていた。彼女から新聞を買ってお釣りを
チップにしたことはあるけれど、名前も何も知らなかった。弁護士から、彼女
から彼への遺産があると知らされて漸く、殺人事件の被害者の名前、メアリー・
アリス・レッドフィールドと彼女が一致した。(このフルネームが何度か、
効果的に文中に挿入される。)
 なぜ彼にお金が残されたのか不思議で気になる。彼以外にも、あまり
接点もなかったのに遺産をもらった人々がいる。マットは事件を調べ始め、
ひとくくりにホームレスやバッグ・レイディと呼ばれ、個々人の生活履歴など
存在しないかのように、良くて見て見ぬふりをされるだけ、悪ければ襲撃の
対象になる孤立した個人の物語を浮かび上がらせる。

 マット・スカダーが調査している噂を聞いて、犯人はマットに会いに来る。
マットにつき添われて、犯人は警察に自首する。

<[略]これは事件とはいえないし、また私が解決したというものでもない。
 [中略]
 すべては、彼女の遺産が、この事件を解決した[中略]、私をこの事件に
 引き込んだのも、彼女の遺産の一部なのだから。
  そう、だから、たぶん彼女は自分自身で犯人を捕まえたのだろう。それとも、
 犯人が自分で自分を捕まえたか。みんなが彼女の話をして、結局自分の話を
 してしまうように。それは誰もが孤島のような存在ではいられないからなのか、
 それとも誰もがみんな孤島だからなのか。>(p467~468)

 「孤島」と聞くとジャン・グルニエが思い浮かぶけれど、この場合、名前のみ
知るジョン・ダンだろう。ローレンス・ブロック作品による英米文学史、という
のもできそうだが、結構、オーソドックスかしらと、ヤマカンが爆走する。

     (ローレンス・ブロック/田口俊樹 他・訳 「ローレンス・ブロック傑作集 2
     バランスが肝心」 ハヤカワ文庫1993初 J)

12月06日に続く~





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by byogakudo | 2014-12-04 20:56 | 読書ノート | Comments(0)


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