2014年 12月 17日

ローレンス・ブロック「砕かれた街」<上>読了

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 上巻で全登場人物が出揃う。各人のパーソナリティや9・11までの
彼らの人生、以後の毎日が描かれる。ニューヨークを愛し、住み続け、
描き続ける作家としては、書かずにいられない小説だろう。成功して
いるかどうかは、半分を過ぎた今でも少し疑問があるけれど。

 犯人探しのミステリではないから犯人は上巻で明かされ、犯行に至る
経緯や理由も書かれているが、エンタテインメントの限界みたようにも
感じる。
 家族全員を9・11で失った初老の男が、ソドムとゴモラの街、ニュー
ヨークは、
<悲劇が起きるたび、市(まち)はその衝撃に揺れ、傷口から血を流し、
 それまで以上に偉大な市(まち)になろうと立ち直ってきたのだ。悲劇が
 起きるたび、犠牲者の魂がより偉大な市(まち)の魂の一部となり、市(まち)
 を豊かにし、成長させてきたのだ。>(p286)
という啓示を得て、夫婦間以外のセックスに走る女や、売春宿やゲイバーに
孤独なテロをしかける。イスラム教という外部の一神教からしかけられたテロ
に対抗して街の浄化を願うなら、(やはり一神教である)キリスト教内部から
の血と犠牲が必要だ、という彼なりのロジックだろうか。
 こういう割り切った理解の仕方がエンタテインメントで、文学とは異なる
アプローチだ。

 理屈と膏薬はどちらにもつく。一神教は独善的にならざるを得ないし、聖書を
自己流に読むと碌なことにはならない例だけれど、世捨て人/テロリストは、
こういう論理で武装し、職人的に、誰に命ぜられたわけでもない任務を遂行し、
彼の周囲のニューヨーカーの人生に影響を及ぼす。

 最初の浮気女殺害事件で犯人扱いされた作家は、事件がきっかけで一躍、
有名作家、一流作家の仲間入りしそうな段階にジャンプアップする。彼のまだ
書かれていない作品を廻って、大手出版社間で契約金の競りが行なわれる。
 作家、エージェント、出版社の意向を代表する編集者間のやり取りが臨場感を
もって描かれる。「ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門」にも似た
ようなエピソードが書かれているかもしれないけれど。

 アウトサイダー・アートの画廊を経営するニンフォマニアの美人は、アメリカの
性的冒険とフェミニズムの歴史を象徴するような存在で、下巻では前・ニュー
ヨーク市警察本部長を相手に倒錯的なセックスをする。セックス描写の多い、
マット・スカダーが出てこないスカダー・シリーズの趣きだ。

 すいすいと読んでいる。

     (ローレンス・ブロック/田口俊樹 訳「砕かれた街」<上>
     二見文庫 2004初 J)

12月18日に続く~





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by byogakudo | 2014-12-17 21:04 | 読書ノート | Comments(0)


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