猫額洞の日々

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2014年 12月 30日

荒木一郎「ありんこアフター・ダーク」読了

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 2007年1月17日に「さよならがいいたくて」の感想文を書いた
荒木一郎。そのとき、読んでみたいと書いた「ありんこアフター・
ダーク」が小学館文庫で復刊され、とうとう読めた。

 「__60年安保の青春」とサブタイトルできそうな「ありんこ
アフター・ダーク」だ。自伝的小説である。
 扱われる時間は1960年から1964年まで、場所は主に渋谷、
少し新宿や京都なども出てくる。1944年1月8日生れ(敗戦時、
1945年8月15日には1歳半くらい)の著者が16歳から20歳までの、
ひと息に駆け抜けた或る時空を振り返る、という構造だ。

 1960年6月23日、日米安全保障条約発効。
 1961年1月20日、ジョン・F・ケネディ、大統領に就任。
     8月13日、東西ベルリンの境に有刺鉄線が張り巡らされ、
     8月末にはコンクリートで壁が築かれる。
 1962年8月5日、マリリン・モンロー死去。
 1963年11月22日、ジョン・F・ケネディ死去。
 1964年10月10日、東京オリンピック。

 戦後の闇市の空気の名残がある渋谷。道玄坂を上り、坂の途中で
右に曲がると、ジャズ喫茶「ありんこ」のある百軒店だ。地の文では
「僕」、会話中でまれに「俺」と称する話者が、さまざまなエピソード
を連作的に語る教養小説・不良版。

 70年代なら「セックス、ドラッグ、ロックンロール」、60年代なので、
「セックス、ドラッグ(ハイミナール)、モダーンジャズ」である。

 (いきなり横道にそれるが、なぜ日本語では modern が短く、
「モダン」と発音されるようになったのか? 他には major が
「メジャー」になるが、日本語の中の何が、短音化を促すのか?)

 東京が都会であった頃、都電がそろそろ道路から押し出され、
車社会になろうとする頃、思春期を迎えた山の手育ちの「僕」は
モダーンジャズにイカれ、ジャズ喫茶「ありんこ」に入り浸る。そこで
知り合ったり、派生的に知った仲間でモダーンジャズ・バンドを作る。
演奏するためにダンス・パーティを企画し、そのために小さなプロ
ダクションも作る。
 その間、男伊達から女の子を引っかけ、日常への嫌悪から彼女を捨て、
純情な(すなわち、倫理と美意識から手を出さない)恋をし、失恋し、
ある女の子のハイミナール中毒を治してやろうと思い、敵を知るにはと、
自らハイミナールを試みて自分が中毒し...というバンドと青春の物語だ。

 「僕」とその仲間たちが生きる街は、闇市の伝統(?)で、渋谷でも
新宿でも、繁華街にはヤクザがいっぱい。どころか、「僕」のバンドの
メンバーの弟は暴力団員である。

 民間に戦争の暴力の名残があるように、官憲にも暴力の伝統がちらつく。
 『第二章 ダイヤモンド密輸事件』では、「僕」たちはダイヤモンドに
近づく以前の犯罪(?)で取り調べられる。
<取り調べは、案外キツイらしく、髪をつかんで金盥(かなだらい)に顔を
 浸(つ)けられたり、苦しくなって顔を上げれば、鳩尾(みぞおち)をいやと
 いうほど膝で蹴り上げられたりする>(p073~074)

 『第三章 理沙のいる街』で、
< 二幸(にこう)の横道を歩いて行くと、僕たちは、安保のデモ隊や学生
 運動にそなえ、第四機動隊が演習している姿にぶつかった。 
  演習といっても、ただ隊を組んで足慣らしのマラソンをしているだけなの
 だが、演習というのに相応(ふさわ)しいほどそれはモノモノしく、かつ、
 勇ましかった。>ので、小児麻痺のバンド仲間は「カッコイイなァ」と
呟いたのだが誤解され、機動隊員の真ん中に引っ張り込まれて、
< 「腹と背中を、奴らは膝で小突いたんだ。たらいまわしさ」>(p097~098)
__傷が完全に癒(なお)るのに、一ヶ月余りかかった。

 『第十二章 ありんこアフター・ダーク』で、主人公は失恋し、辛さに耐え
きれずハイミナールと酒を飲み、彼女の家にもう一度行くつもりで車を出し、
電柱や垣根にぶつける。酔っぱらい運転で現行犯逮捕され、パトカーに乗せ
られる際には、
< 「おまえは、今、ピストルに触っただろう」>と因縁をつけられ、警官三人で
<僕を取り囲む形になった。
  野次馬からの死角に僕を追いやったとたん>下腹部を蹴り上げ、肘を使って
胃を小突き、再び下腹部を膝蹴りする。(p336~337)
 酔ってはいるが、パトカーが一方通行を逆に入っていることに気づき、指摘
したら、ひとけのない早朝の十字路でパトカーを停め、三人が順番に「僕」を
暴行する。腹をげんこつで殴り、腰を膝で蹴り、最期のひとりは左からのスト
レート。(P338)

 ひとつのくっきりした時間が過ぎ去ってしまったと、気づいたことのある
誰でもの物語だ。近代の男のスタイリッシュ追求は、めんどくさいね、とも
思うけれど、それは時代的制約、というものだろう。今の若いひとが読んだら、
なんて過剰な!と思うのかしら。
 
     (荒木一郎「ありんこアフター・ダーク」 小学館文庫 2014初 帯 J)





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by byogakudo | 2014-12-30 22:07 | 読書ノート | Comments(0)


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